書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『ことばの果実』長田弘 | 【感想・ネタバレなし】世界はまだ信じるにあたいするのだと。希代の詩人が遺した心洗うことばの果実たち。

今日読んだのは、長田弘『ことばの果実』です。 2015年5月に永眠された希代の詩人のエッセー集です。 「苺」「さくらんぼ」「甘夏」「白桃」「スイカ」…… タイトル通り、四季折々の果実が各章のタイトルになっていて、目次を見るだけで宝箱を覗くようにドキ…

『死にふさわしい罪』藤本ひとみ | 【感想・ネタバレなし】天才的な数学系男子が挑む謎としたたかな大人たち

今日読んだのは、藤本ひとみ『死にふさわしい罪』です。 歴史小説の大家というイメージがあったのですが、数学が得意な高校生が主人公のミステリということで、ちょっと気になって読んでみました。 ところどころ見え隠れするペダンティックな趣味と、決して…

『エチュード春一番 第三曲 幻想組曲』荻原規子 | 【感想・ネタバレなし】平将門の物語を蝦夷の少女の視線で再構築する。シリーズ第3巻。

今日読んだのは、荻原規子『エチュード春一番 第三曲 幻想組曲 [狼]』です。 八百万の神の一柱を名乗る白黒のパピヨン・”モノクロ”と同居する女子大生・美綾の生活を描いたファンタジーシリーズの第3巻です。 1巻2巻の感想はこちら↓ rukoo.hatenablog.com ru…

芥川賞を全作読んでみよう第7回『厚物咲』中山義秀 |【感想】骨の髄まで腐った老人が咲かせた美しい菊に透かし見る人生の艱難に抵抗した魂の秘密

芥川賞を全作読んでみよう第7回、中山義秀『厚物咲』をご紹介します。 芥川龍之介賞について 第七回芥川賞委員 第七回受賞作・候補作(昭和13年・1938年上半期) 受賞作『厚物咲』のあらすじ 感想 選評委員の評価 芥川賞には珍しい読後感 生き恥を晒し続けた…

『時空犯』潮谷験 |【感想・ネタバレなし】成功報酬1千万円。千回近くループし続ける”2018年6月1日”の謎を解け

今日読んだのは、潮谷験『時空犯』です。 デビュー作でメフィスト賞受賞作の『スイッチ 悪意の実験』がとてもユニークで面白かったので、2作目も読んでみました。 ある1日がループするなかで、殺人が起きる、というSFミステリです。 この設定のミステリでは…

『原因において自由な物語』五十嵐律人 |【感想・ネタバレなし】彼は誰が殺したのか、自由意志がもたらすある悲劇と夜明け

今日読んだのは、五十嵐律人『原因において自由な物語』です。 タイトルのカッコよさに惹かれて読みました。 法律用語の「原因において自由な行為」からきているらしいです。 弁護士でもある著者らしいタイトルだな、と思いました。 内容は、いじめ、自殺疑…

『ブラッド・ブラザー』ジャック・カーリイ | 【感想・ネタバレなし】カーソン・ライダーシリーズ第4作。あふれる魅力と高い知能を持つ殺人鬼、それが僕の兄

今日読んだのは、ジャック・カーリイ『ブラッド・ブラザー』です。 シリアルキラーを兄に持つ若き刑事・カーソン・ライダーの活躍を描いたシリーズ4作目です。 前作『毒蛇の園』ではなりを潜めていた兄・ジェレミーが大活躍します。 また、本拠地モビール市…

『毒蛇の園』ジャック・カーリイ | 【感想・ネタバレなし】カーソン・ライダーシリーズ第3作。謎めいた富豪一族の周囲に積み重なる死体の山とおぞましい秘密

今日読んだのは、ジャック・カーリイ『毒蛇の園』です。 シリアルキラーを兄に持つ若き刑事・カーソン・ライダーの活躍を描いたシリーズ3作目です。 といっても、今作ではシリアルキラーに兄・ジェレミーは登場しませんでした~。 ただ、エンタメ小説として…

『デス・コレクターズ』ジャック・カーリイ | 【感想・ネタバレなし】カーソン・ライダーシリーズ第2作。人間の底知れない欲望が招くおぞましい真相とは

今日読んだのは、ジャック・カーリイ『デス・コレクターズ』です。 シリアルキラーを兄に持つ若き刑事・カーソン・ライダーの活躍を描いたシリーズ2作目です。 海外刑事ドラマを見ているかのような映像を感じさせる描写と、殺人鬼の兄に助言を求めに行く、と…

『百番目の男』ジャック・カーリイ | 【感想・ネタバレなし】カーソン・ライダーシリーズ第1作。暗闇で手探りする”百番目の男”が首なし死体の謎に挑む

今日読んだのは、ジャック・カーリイ『百番目の男』です。 若き刑事カーソン・ライダーの活躍を描いたクライム・サスペンスです。 恋愛あり、アクションあり、暗い過去あり、の息も尽かせぬスピード感に、巧みな伏線と思いもよらない(でもフェアな)真犯人…

芥川賞を全作読んでみよう第6回『糞尿譚』火野葦平 |【感想】あまりに衝撃的なテーマで庶民生活の哀歓と糞のような人間模様を丹精に描く

芥川賞を全作読んでみよう第6回、火野葦平『糞尿譚』をご紹介します。 芥川龍之介賞について 第六回芥川賞委員 第六回受賞作・候補作(昭和12年・1937年下半期) 受賞作『糞尿譚』のあらすじ 感想 タイトルの衝撃と内容の丁寧さのギャップ 糞のような人間た…

『アールダーの方舟』周木律 | 【感想・ネタバレなし】三つの宗教が交錯する聖なる山で起きた不可解な殺人事件と壮大なる歴史ミステリー。人間存在の尊厳が問われる物語。

今日読んだのは、周木律『アールダーの方舟』です。 キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、3つの宗教共通の聖なる山・アララト山、ノアの方舟が漂着した土地として知られる山を舞台とした歴史ミステリー、という触れ込みに惹かれ手に取りました。 宗教と神にま…

『俗・偽恋愛小説家』森晶麿 |【感想・ネタバレなし】恋愛童話に隠された秘密ふたたび。偽恋愛小説家・夢宮と担当編集・月子との関係にも変化が

今日読んだのは、森晶麿『俗・偽恋愛小説家』です。 底意地の悪いイケメン小説家・夢宮と新米編集者・月子のコンビが有名な恋愛童話になぞらえた事件を解決していく、というシリーズの第2作目になります。 ライトなストーリーと、キャラクターの魅力、モチー…

『偽恋愛小説家』森晶麿 |【感想・ネタバレなし】あの恋愛童話に隠された秘密とは? シニカルな恋愛(?)小説家と新米編集者が挑む恋にまつわる難事件

今日読んだのは、森晶麿『偽恋愛小説家』です。 華々しくデビューした恋愛小説家にニセモノ疑惑勃発!? 新米編集者の月子は疑惑の真偽を確かめようと奔走。 しかも、身の回りで次々、事件が起こるし、小説家・夢野の思わせぶりな態度も気になるし……。 とい…

『星に仄めかされて』多和田葉子 | 【感想・ネタバレなし】言語で繋がった人々は対話の果てに何を見るのか

今日読んだのは、多和田葉子『星に仄めかされて』です。 先日書評を書いた『地球にちりばめられて』の続編にあたります。 失われた母国の言語を話す人を探す女性・Hirukoを中心に、言語の無限の可能性によって繋がった仲間たちを描いた『地球にちりばめられ…

『地球にちりばめられて』多和田葉子 | 【感想・ネタバレなし】言語の可能性が仲間を繋ぐ、国からの解放を朗らかに謳いあげる冒険譚

今日読んだのは、多和田葉子『地球にちりばめられて』です。 この著者は海外で高い評価を得ている、と聞いていたので、小心者の読者としては、気にはなるものの、なんか難しそう、と少々敬遠していました。 が!、最近、芥川賞の過去受賞作を順々に読み進め…

芥川賞を全作読んでみよう第5回『暢気眼鏡 その他』尾崎一雄 |【感想】底辺の貧乏生活を天真爛漫な若妻に寄せてサラサラと描く牧歌的な作品群

芥川賞を全作読んでみよう第5回、尾崎一雄 『暢気眼鏡』をご紹介します。 芥川龍之介賞について 第五回芥川賞委員 第五回受賞作・候補作(昭和12年・1937年上半期) 受賞作『暢気眼鏡』のあらすじ 感想 貧乏を明るく描く 今後の期待に寄せて 今回ご紹介した…

『たまごのはなし』しおたにまみこ | 【感想・ネタバレなし】シュール?哲学?じわじわ刺さるちょっとひねくれた(?)たまごのはなし

今日読んだのは、しおたにまみこ作の絵本『たまごのはなし』です。 緻密な鉛筆の線で描かれた独特の絵と、そのシュールで哲学的な内容にどんどん引き込まれます。 一見ひねくれてみえる”たまご”の行動が、よくよく考えてみると、本質をズバリと突いているよ…

『沼地のある森を抜けて』梨木香歩 | 【感想・ネタバレなし】新しい命よ、解き放たれてあれ。壮大な命の旅路と震えるほどの孤独と自由、託された夢と可能性に心震える物語

今日読んだのは、梨木香歩『沼地のある森を抜けて』です。 叔母から受け継いだ先祖伝来の「ぬか床」という庶民的(?)なスタートから、途中不一気に不穏な雰囲気になり、最終的に、命のはるかな旅路と新しい生命に託された可能性と夢が描かれるという、壮大…

『村田エフェンディ滞土録』梨木香歩 | 【感想・ネタバレなし】国とは一体何なのか。かけがえのない友と青春の日々を綴るトルコ滞在記

今日読んだのは、梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』です。 同著作の、『家守綺譚』『冬虫夏草』に登場するトルコ留学中の村田君が主人公です。 1899年、西洋と東洋の狭間の国・トルコに留学した村田君は、異教の友人らと議論したり、掘り出した遺跡に目を…

『冬虫夏草』梨木香歩 | 【感想・ネタバレなし】家へ、帰ろう

今日読んだのは、梨木香歩『冬虫夏草』です。 巻頭に、 新進文士(かけだしものかき)綿貫征四郎君、疎水に近隣(ほどちか)き高堂(なきとも)の生家(いえ)が守(もり)を委託(まか)され、故(ため)に天地自然の気(りゅうやらおにやらかっぱやら)と…

『家守綺譚』梨木香歩 | 【感想・ネタバレなし】友よ、また会おう

今日読んだのは、梨木香歩『家守綺譚』です。 読んだ後に心洗われるような心地がする話というのがあって、中勘助の『島守』なんかがそうなのですが、この『家守綺譚』はそれにとても近いと感じました。 時代は明治、巻頭には 左は、綿貫征四郎の著述せしもの…

『僕と『彼女』の首なし死体』白石かおる | 【感想・ネタバレなし】冬の朝、僕は”彼女”の首を渋谷に置き去りにした。”彼女”の願いを叶えるために。

今日読んだのは、白石かおる『僕と『彼女』の首なし死体』です。 第29回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作(2008年)です。 商社勤めのサラリーマンの”僕”が、女性の首を渋谷のハチ公前に置き去りにする、という衝撃的なシーンからはじまるミステリです。 ”…

『硝子のハンマー』貴志祐介 | 【感想・ネタバレなし】自称:防犯コンサルタント(本当は泥棒?)が挑む驚愕の密室トリック、防犯探偵榎本シリーズ第1作

今日読んだのは、貴志祐介『硝子のハンマー』です。 自称:防犯コンサルタントで本職は泥棒?な榎本が密室に挑む榎本探偵シリーズの第1作目です。 泥棒が密室に挑むという斬新な設定も面白いですし、鍵や監視カメラに関する豊富なミニ知識も、へえ~、と感心…

『エチュード春一番 第二曲 三日月のボレロ』荻原規子 | 【感想・ネタバレなし】思いやりと知性の在り方に思いをはせる夏。シリーズ第2巻。

今日読んだのは、荻原規子『エチュード春一番 第二曲 三日月のボレロ』です。 八百万の神の一柱を名乗る白黒のパピヨン・”モノクロ”と同居する女子大生・美綾の生活を描いたファンタジーシリーズの第2巻です。 1巻の感想はこちら↓ rukoo.hatenablog.com 1巻…

『エチュード春一番 第一曲 小犬のプレリュード』荻原規子 | 【感想・ネタバレなし】春、八百万の神を名乗る犬と出会った。不安と期待に揺れる新生活と幼い日々のほろ苦い後悔が交錯するちょっと不思議なファンタジー

今日読んだのは、荻原規子『エチュード春一番 第一曲 小犬のプレリュード』です。 今作は、八百万の神と名乗る犬(!?)と同居することになった女子大生という設定で、神との同居という非日常と大学生の生活という日常の描写、両方を楽しめると期待が膨らみ…

『草原のコック・オー・ヴァン 高原カフェ日誌II 』柴田よしき | 【感想・ネタバレなし】高原のカフェの秋と冬。一筋縄ではいかない人生にもやがて春が来る

今日読んだのは、柴田よしき『草原のコック・オー・ヴァン 高原カフェ日誌II』です。 こちらは、高原のカフェを舞台としたシリーズものの2作目にあたります。 1作目の感想はこちら rukoo.hatenablog.com 結婚に失敗し傷を負った主人公・奈穂は、東京から脱出…

『揺籠のアディポクル』市川憂人 | 【感想・ネタバレなし】『ジェリーフィッシュは凍らない』作者が放つウイルスが蔓延する世界での切ないボーイミーツガールミステリ

今日読んだのは、市川憂人『揺籠のアディポクル』です。 デビュー作『ジェリーフィッシュは凍らない』から続くマリア&漣シリーズは、その怜悧かつ精緻なトリックと個性豊かかつ的確なキャラクター描写で、大好きなミステリシリーズの一つなのですが、シリー…

『平家物語』古川日出男訳 | 【感想・ネタバレなし】無数の死者の声がこだまする日本屈指のギガノベルが現代の”声”で甦る

今日読んだのは、古川日出男訳『平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)』です。 古川日出男のファンである私ですが、2016年に出版されたこちらは未読でした。 ”古川日出男オリジナル”じゃないしな~、という思いと、『平家物語』という合戦もの=固そ…

『もう泣かない電気毛布は裏切らない』神野紗希 | 【感想・ネタバレなし】俳人であり新妻であり母であり…他愛のない日常がきらめく今を生きる俳人のエッセイ集

今日読んだのは、神野紗希『もう泣かない電気毛布は裏切らない』です。 1983年生まれの現代に生きる女性であり、妻であり母であり、俳人でもある著者がどのように日々を綴るかに興味を惹かれ、読み始めました。 結婚、夫との日々、幼い息子の眼差し、俳句へ…