書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『乱鴉の島』有栖川有栖 | 【感想・ネタバレなし】王道の孤島ミステリ。精緻なロジカルと当時の最先端技術に寄せる著者の倫理的態度が融和する傑作

今回ご紹介するのは、有栖川有栖『乱鴉の島』です。 所謂「作家アリスシリーズ」 の長編にあたり、孤島もののミステリに位置づけられます。 年代が2000年代初頭なので、携帯電話が一般的に普及しはじめたけれど、スマホはもう少し先、パソコンでインターネッ…

『JR高田馬場駅戸山口』柳美里 | 【感想・ネタバレなし】子供を守ろうとすればするほど行き場所を無くしていく女。居場所のない魂が行き着く先とは

今回ご紹介するのは、柳美里『JR高田馬場駅戸山口 (河出文庫)』です。 2020年度全米図書賞(National Book Awards 2020)の翻訳部門を受賞した『JR上野駅公園口』が連なる山手線シリーズの一作です。 そちらの感想はこちら↓ rukoo.hatenablog.com 本書は2012…

『台北プライベートアイ』紀蔚然 | 【感想・ネタバレなし】台湾発のハードボイルド探偵が連続殺人事件を追いかける。この面白さは読まないと分からない!

今回ご紹介するのは、紀蔚然『台北プライベートアイ』です。 原題は『私家偵探』。 台湾人が書く私立探偵小説なんて、面白そうな予感しかしない!とビビっときて、そのまま夢中になって一気に読み上げました。 ジャンルを問われれば、”ハードボイルド”としか…

『ウエストウイング』津村記久子 | 【感想・ネタバレなし】雑居ビルのデッドスペースで交錯する年齢も性別もバラバラの3人の人生。

今回ご紹介するのは、津村記久子『ウエストウイング』 です。 津村記久子の物語は、就職氷河期世代真っ盛りといった風の全体的に未来の見えないどんよりした気怠さ全開の雰囲気なのに、独特のユーモアとシニカルさにニヤリとさせられ、何故か読み終わると、…

『JR品川駅高輪口』柳美里 | 【感想・ネタバレなし】携帯電話で自殺掲示板を眺める女子高生は品川駅から約束の場所へ向かう。毎日毎刻生きることを選択し続ける、その尊さを温かな雨が濡らす

今回ご紹介するのは、柳美里『JR品川駅高輪口 (河出文庫)』です。 2020年度全米図書賞(National Book Awards 2020)の翻訳部門を受賞した『JR上野駅公園口』が連なる山手線シリーズの一作です。 そちらの感想はこちら↓ rukoo.hatenablog.com 本書は2011年に…

『さよならの夜食カフェ-マカン・マラン おしまい』古内一絵 | 【感想・ネタバレなし】マカン・マランシリーズ第4作。

今回ご紹介するのは、古内一絵『さよならの夜食カフェ-マカン・マラン おしまい (単行本)』です。 おしまい、ということは、もうこれがシリーズ最終作となるということですね。 ちょっと残念です。 でも、これまでのシャールさんに掬い上げられてきた各話の…

『男ともだち』千早茜 | 【感想・ネタバレなし】異性の友人というややこしさを喝破する潔さに心洗われる、古い友人に会いたくなる一冊

今回ご紹介するのは、 千早茜『男ともだち』です。 これまで読んだ著者の本のなかで(エッセイも含めて)、著者の内臓に一番深く触れる小説だった気がします。 それだけに表現としての小説というより、良い意味でも悪い意味でも何かの吐露のような、洗練さよ…

『ガーデン』千早茜 | 【感想・ネタバレなし】自分だけの密やかな庭に引きこもる植物系男子の生態

今回ご紹介するのは、千早茜 『ガーデン』です。 千早茜さんの小説は、もしかして自分のことを書かれてる?と思ってしまうほど、水が合うところがあります。 特に『男ともだち』などは、どこかで監視されているんじゃないかと思うくらい、ぴったり自分に嵌っ…

『きまぐれな夜食カフェ - マカン・マラン みたび』古内一絵 | 【感想・ネタバレなし】マカン・マランシリーズ第3作。あのシャールさんがはじめて料理を分け与えない相手が登場

今回ご紹介するのは、古内一絵『きまぐれな夜食カフェ - マカン・マラン みたび (単行本)』です。 大人気の「マカン・マランシリーズ」の第3弾! マカン・マランはインドネシア語で「夜食」の意味。 ドラァッグクイーンのシャールさんが営む夜食カフェ「マカ…

『JR上野駅公園口』柳美里 | 【感想・ネタバレなし】漂泊する死者の独白によって浮き彫りにされる私たちの歴史の影と死者への祈り

今回ご紹介するのは、柳美里『JR上野駅公園口 (河出文庫)』 です。 2020年度全米図書賞(National Book Awards 2020)の翻訳部門を受賞した作品です。 日本の歴史の影を具現化したかのような一人の男の生涯を、漂泊する魂の独白と雑踏から聞こえる無数の声に…

『無暁の鈴』西條奈加 | 【感想・ネタバレなし】仏は、浄土は、何処におわすのか。飢餓と貧困の世に一人の男の辿り着く遥かなる境地とは。

今回ご紹介するのは、西條奈加『無暁の鈴 (光文社文庫)』です。 著者は2021年に『心淋し川』で直木賞を受賞しています。 今作は受賞後の初文庫化作品とのことで、気になり手に取ってみました。 自らも殺人に手を染め、飢餓と貧困の地獄図を目の当たりにした…

『女王さまの夜食カフェ - マカン・マラン ふたたび』古内一絵 | 【感想・ネタバレなし】マカン・マランシリーズ第2作。戻ってきたシャールさんの小さな美味しい魔法

今回ご紹介するのは、古内一絵『女王さまの夜食カフェ - マカン・マラン ふたたび』です。 大人気の「マカン・マランシリーズ」の第2弾! 第1作の感想はこちら↓ rukoo.hatenablog.com マカン・マランはインドネシア語で「夜食」の意味。 ドラァッグクイーン…

『おれたちの歌をうたえ』呉勝浩 | 【感想・ネタバレなし】あの日確かに繋がった歌声をおれたちは今に運べるか、昭和と令和を行き来する骨太の大河ミステリー

今回ご紹介するのは、呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』です。 昭和51年と令和元年を行き来する骨太のミステリーというかピカレスク。 無邪気であれた幼い日々と残忍な今の容赦のない対比やめまぐるしい展開、暴力描写、圧倒的な物量に押しつぶされそうになり…

『透明な夜の香り』千早茜 | 【感想・ネタバレなし】渡辺淳一文学賞受賞、古い洋館に棲む調香師が暴くヒトのどうしようもない欲望と秘密

今回ご紹介するのは、 千早茜『透明な夜の香り』です。 生々しく官能的かつ荒々しい著者の文章にすっかり魅了されてしまい最近乱読しています。 食の描写が特に素晴らしい著者ですが、第6回渡辺淳一文学賞受賞作の本書は官能的で荒々しい「香り」についての…

『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子 | 【感想】何故か滅茶苦茶笑えるお仕事小説、怠惰なコピー機と闘う滑稽なOLの姿が、ズルい奴らへの怒りを浮き彫りにする

今回ご紹介するのは、津村記久子『アレグリアとは仕事はできない (ちくま文庫)』です。 アレグリアという欠陥複合機を相手に孤軍奮闘するOLの姿が、淡々と描かれている滑稽な小説です。 冷静に読むと結構暗い現実を書いているのに、はじまりから、クスクス笑…

叙述シリーズ3弾!爆破テロによりタワーに取り残されるマリア!透明な迷宮に閉じ込められた4人の男女を襲う惨劇と哀しき硝子鳥の秘密

今回ご紹介するのは、市川憂人『グラスバードは還らない』です。 シリーズ第4作『ボーンヤードは語らない』が2021年6月に発売されるのに合わせ、精緻に編み込まれた本格ミステリである本シリーズの魅力をご紹介したいと思います。 第3弾となる本書では、マリ…

『ブルーローズは眠らない』市川憂人 | 【感想・ネタバレなし】マリア&漣シリーズ第2弾!青いバラ咲き誇る密室には切り落とされた首と縛られた生存者が

今回ご紹介するのは、市川憂人 『ブルーローズは眠らない』です。 シリーズ第4作『ボーンヤードは語らない』が2021年6月に発売されるのに合わせ、精緻に編み込まれた本格ミステリである本シリーズの魅力をご紹介したいと思います。 類まれな美貌と怜悧な頭脳…

『マカン・マラン - 二十三時の夜食カフェ』古内一絵 | 【感想・ネタバレなし】マカン・マランシリーズ第1作。ドラッグクイーンのつくる優しい料理が心に美味しい

今回ご紹介するのは、 古内 一絵『マカン・マラン - 二十三時の夜食カフェ』です。 マカン・マランはインドネシア語で「夜食」の意味。 ドラッグ・クイーンのシャールさんが営む夜食カフェと、そこに訪れる人々を描いた連作短編集です。 シャールさんのつく…

『ジェリーフィッシュは凍らない』市川憂人 | 【感想・ネタバレなし】マリア&漣シリーズ第1作目にして第26回鮎川哲也賞受賞作

今回ご紹介するのは、市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』 です。 著者のデビュー作にして、21世紀の『そして誰もいなくなった』と選考委員に絶賛された本格ミステリです。 著者のマリア&漣シリーズの第1作目でもあります。 シリーズ第4作『ボーンヤ…

『ミカンの味』チョ・ナムジュ |【感想・ネタバレなし】「82年生まれ、キム・ジヨン」の著者の新作! 枝から切り取られた後も、自ら熟す青い果実たちの日々

今日読んだのは、チョ・ナムジュ『ミカンの味』です。 食や文化などあらゆる流行が韓国から流れて生きているように感じますが、文学でもそ傾向が近年強くなったと感じます。 著者のチョ・ナムジュは、『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ベストセラーとなって…

『この世にたやすい仕事はない』津村記久子 | 【感想・ネタバレなし】仕事とは一つの宇宙、ちょっと不思議でニッチなお仕事小説

今日読んだのは、津村記久子『この世にたやすい仕事はない』です 前職を燃え尽き症候群で辞めた36歳の女性が5つの短期のお仕事をする、という小説なのですが、どれも超マニアックな仕事ばかりで、世の中には変わった仕事が沢山あるものだと感心してしまいま…

『私の夫は冷凍庫に眠っている』八月美咲 | 【感想・ネタバレなし】殺したはずの夫が帰ってきた、緊迫感に耐え切れないサスペンス

今日読んだのは、八月美咲『私の夫は冷凍庫に眠っている』です。 人気小説サイト「エブリスタ」発のラブ・サスペンスで、ドラマ化、漫画化もしている注目作です。 www.tv-tokyo.co.jp 殺した夫を冷凍庫に隠したはずなのに、その夫が帰ってきた!という衝撃の…

『サード・キッチン』白尾悠 | 【感想・ネタバレなし】理解が欲しいわけじゃない、ただ受け入れてほしい。自分の、あなたのそのままの姿を。

今日読んだのは、白尾悠『サード・キッチン』です。 1998年、都立高校を卒業後、アメリカに留学した女性が、言語の壁や、様々なカルチャーショックを通して、臆病な自分と対峙していく物語です。 2020年の「ジョージ・フロイド事件」以降、「Black Lives Mat…

『百貨の魔法』村山早紀 | 2018年本屋大賞ノミネート作品、昭和のノスタルジー漂う百貨店に舞い降りる奇跡

今日読んだのは、村山早紀『百貨の魔法』です。 2018年本屋大賞ノミネート作品でもあるこの作品、装丁の華麗さも見所の一つです。 地方の百貨店を舞台とした連作短編で、戦後の復興と発展の象徴でありながら、時代の波に抗い切れず閉店間近と噂される星野百…

『本にまつわる世界のことば』物語と本にまつわる世界中の言葉をあつめた大人の絵本

今日読んだのは、絵本『本にまつわる世界のことば』です。 本、読書、詩、言葉に関する世界中の慣用句やことわざが集められ、更にその表現にまるわるショートストーリーやエッセイが付記された贅沢で美しい大人のための絵本です。 積ん読"tsundoku" ペルシア…

『盤上に君はもういない』綾崎隼 | 【感想・ネタバレなし】もう一度だけあなたと指したい、二人の女性が挑戦する前人未到の女性のプロ棋士への闘い

今日読んだのは、綾崎隼『盤上に君はもういない』です。 史上初の女性プロ棋士を目指す二人の女性の熱い闘いとその裏に隠された切ない過去を描いた小説です。 "女流棋士"と"女性プロ棋士"は全く違うということを、今作で、はじめて知りました。 男女関係なく…

『私は古書店勤めの退屈な女』中居真麻 | 【感想】自分で退屈な女と言う女は大抵退屈じゃない

中居真麻『私は古書店勤めの退屈な女』のあらすじと感想を紹介します。 夫の上司と泥沼不倫中のシニカルなヒロインとゆる~いおっちゃんの、古書店での不思議で愛しい日々。

『さんかく』千早茜 | 【感想】男女が一緒にいることには理由がいるのだろうか、食べることが浮き彫りにする男女の相克

千早茜『さんかく』のあらすじと感想を紹介します。大学教授とパフェを食べに行く場面が印象的。食べたいように生きたいようにすればいいという潔い態度が心地よい。

『チーズと塩と豆と』角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織 | 【感想】4人の直木賞作家がヨーロッパンの都市を舞台に描く愛と味覚のアンソロジー

今日読んだのは、4人の直木賞作家のアンソロジー 『チーズと塩と豆と』です。 著者は、角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織という錚々たる面々。 角田光代は、スペインのバスク。 井上荒野は、イタリアのピエモンテ。 森絵都は、フランスのブルターニュ。 …

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人 | 【感想・ネタバレなし】日本昔ばなし×本格ミステリ、あの童話でミステリが書けるなんて!

青柳碧人『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のあらすじと読書感想を紹介します。ポップな題材と本格ミステリの見事な融合が楽しめます。