書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『LOVE』古川日出男 | 【感想】軽やかなビートに乗せて東京を疾走する、これは現在進行形の神話

 今日読んだのは、古川日出男LOVE』です。

 音楽を聴いてノッているような文体に魅了されること必須です。

あらすじ

 ケータイを拾うOLカナシー、ミュージシャン秋山徳人、品川区の殺し屋ドナドナ、猫の生息数をカウントする人々キャッターの天才少年ユウタ、ユウタを狙うベテランキャッター礼山礼子、自転車で疾走する少年ジャキ、ウサギを媒介とする二十三区の精霊シュガー、さすらいの移動料理人、丹下健次郎、都バスを愛する少女トバスコ、極度のストレスに抗うビジネスマン、オリエンタ 人とネコが東京を疾走する、これは現在進行形の神話。

おすすめポイント 

・とにかく、文体がロックでかっこいい

・読了後、なぜか感動する

 

注意! ここから物語の琴線に触れます

特異点としての東京 

本書の舞台が東京である意味は重い

10人を超える登場人物らは、それぞれ東京のある特定の地点を移動し続け、おそらくその移動には、その地名には土地勘のある人間なら感得できる、何らかの暗示が含まれている、と推測されます。

というのも、この話の舞台が私の地元であったなら、その地の持つ''霊的意味''あるいは''フルカワ的意味''とでもいうものが、感得できたかもしれない、と感じるところがあるからです。

しかし、逆に言えば、彼らがその地を移動し続け、または留まり続ける行為が、神話的とでもいうべきオーラに包まれ描くことができるのは、東京がある種の特異点だからでしょう。

本書に登場するあらかた魔術的な人々を、都市として内包しリアリティのあるストーリーとして機能させるには、東京という都市を置いて他にないからです。

例えば、舞台が地方都市であったなら、本書の登場人物を内包できず破綻するでしょうし、京都であったなら、この話は古都の魔に呑まれ、ただのファンタジーとなってしまったのではないでしょうか。

 

今なお現在進行形のストーリー

本書を(街を)縦横無尽に駆け巡る登場人物らは、自らの目的に邁進し、その足取りは錯綜します。どこか異能の力を持つ彼らは、自己の目的を達することに忠実で、その態度は一様に情熱的かつクールです。

結構暴力的な行為の多い本書ではありますが、時に出会いは奇妙な救済と感動をもたらします。

カナシーを守ると誓う秋山徳人、ジャキと自らを癒す丹下健次郎、ユウタとオリエンタの出会いと希望、そして真夏の予感。

その根底には、確かに「愛なるもののビート」が響いているのを感じます。

まさに、タイトルは『LOVE』以外あり得ない、と思わせる小説群でした。

ちなみに、巻末の登場人物の現在が書かれていることに、やはり、本書は今なお現在進行形の物語なのだ、と確信しました。

続編『MUSIC』でケータイを拾ったカナシーがどこまでのぼりつめたか、楽しみです。

今回ご紹介した本はこちら

続編はこちら

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