『LOVE』古川日出男 | 【感想】軽やかなビートに乗せて東京を疾走する、これは現在進行形の神話
音楽を聴いてノッているような文体に魅了されること必須です。
あらすじ
おすすめポイント
・とにかく、文体がロックでかっこいい
・読了後、なぜか感動する
特異点としての東京
本書の舞台が東京である意味は重い。
10人を超える登場人物らは、それぞれ東京のある特定の地点を移動し続け、おそらくその移動には、その地名には土地勘のある人間なら感得できる、何らかの暗示が含まれている、と推測されます。
というのも、この話の舞台が私の地元であったなら、その地の持つ''霊的意味''あるいは''フルカワ的意味''とでもいうものが、感得できたかもしれない、と感じるところがあるからです。
しかし、逆に言えば、彼らがその地を移動し続け、または留まり続ける行為が、神話的とでもいうべきオーラに包まれ描くことができるのは、東京がある種の特異点だからでしょう。
本書に登場するあらかた魔術的な人々を、都市として内包しリアリティのあるストーリーとして機能させるには、東京という都市を置いて他にないからです。
例えば、舞台が地方都市であったなら、本書の登場人物を内包できず破綻するでしょうし、京都であったなら、この話は古都の魔に呑まれ、ただのファンタジーとなってしまったのではないでしょうか。
今なお現在進行形のストーリー
本書を(街を)縦横無尽に駆け巡る登場人物らは、自らの目的に邁進し、その足取りは錯綜します。どこか異能の力を持つ彼らは、自己の目的を達することに忠実で、その態度は一様に情熱的かつクールです。
結構暴力的な行為の多い本書ではありますが、時に出会いは奇妙な救済と感動をもたらします。
カナシーを守ると誓う秋山徳人、ジャキと自らを癒す丹下健次郎、ユウタとオリエンタの出会いと希望、そして真夏の予感。
その根底には、確かに「愛なるもののビート」が響いているのを感じます。
まさに、タイトルは『LOVE』以外あり得ない、と思わせる小説群でした。
ちなみに、巻末の登場人物の現在が書かれていることに、やはり、本書は今なお現在進行形の物語なのだ、と確信しました。
続編『MUSIC』でケータイを拾ったカナシーがどこまでのぼりつめたか、楽しみです。
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