『ルート350』古川日出男 | 【感想】レプリカと現実の間を疾走する短編集
ここ最近の著書では『おおきな森』や『あるいは修羅の十億年』など、東日本大震災後の文学は如何にあるべきかを意識した難解な著作が目立っていますね。
私の頭の出来がちょっとアレなので、好きだけど、だんだん理解できなくなってきた、でも好き、の間を漂っております。
でも、最新作『ゼロエフ』買いましたよ! また読んだらレビュー書きます!
読みました!
しかし、この『ルート350』はそんな難解な古川日出男に親しく触れられる一冊。
エンターテイメント小説と純文学の幸福な融合が見られます。
あらすじ
おすすめポイント
文体に癖というか独特のビート感があり、はまるひとには中毒性があります。
マジックリアリズムという言葉にわくわくしてしまう読者にはおすすめです。
他の古川日出男作品が難解と感じる方にも比較的とっつきやすい作品です。
ここから特に面白かった短編の感想など
お前のことは忘れていないよバッハ
この短編集のなかで私的ナンバーワンです。
本作品は、複雑に入り組んだ家族のなかで育つ少女3人がハムスターを共同で飼育するというストーリーを年下の友人が''私''に語る、という入れ子構造をとります。
ここで、少女3人がハムスターを飼育する話は、あくまで作り話、現実のレプリカとして語られます。
絶対に忘れちゃならないことは、これがぜんぶ作り話だってこと。いい?(p9)
そして、少女らが飼うハムスターが家中を探検する様が、世界を冒険する物語となっていく、ここで、家中を探索するハムスターという現実は、世界を冒険する物語のレプリカへと変換されます。
そして、複雑な家族のなかで傷ついた心は、現実を物語のレプリカとして再生する作業に救済されます。
それを可能にした一匹のハムスターに感謝を込めて。
最後の「うん」が最高にクールでした。
ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター
交通事故で幽体離脱した高校生が、3人のクラスメイトの隠された一面を除く、というストーリーです。
3人は自室、バレエ教室の一室、ボクシングジムの一角から、共通のビルのある部屋を見ており、その部屋(と住人)について、それぞれがある種のストーリーを日々創作し、執筆で、ダンスで、ボクシングで表現しています。
それまでクラス以外で接点のなかった3人(とそれを見ている1人)が、ある日ビビっと繋がりその瞬間、何かが爆発するように誕生するラストは爽快でした。
ルート350
表題作にもなっている短編ですが、5ページしかありません。短編というより掌編ですね。国道350号線を旅する男女の再生を描きます。
国道350号線とは珍しい海上を走る国道だそうです。
新潟市から佐渡島、上越市を巡るカーフェリーの航路が国道として指定されているそうです。
海上に路が存在するかのような国道350号線が、現実とレプリカの間を行き来するこの短編集を暗示している、ということでしょうか。
短い掌編ですが、最後の一文にぐっときました。
今回ご紹介した本はこちら