『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか 生と死と哲学を巡って』高村 友也 | 【感想】 滑稽なまでに真面目な人生観とその行きつく先とは
今日読んだのは、、高村友成『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか 生と死と哲学を巡って』です。
著者の高村友成さんは、山梨県の雑木林に自作の小屋をつくって、半ホームレスのような生活をしているそうです。
あと神奈川県の川沿いにも土地を持っていて、そこではテントで生活しているとのこと。
ミニマリストという言葉が流行となって久しい感じですが、この本はそういったものとは趣が違う感じがする、と直感し購入しました。
著者情報によると、 高村友成さんは1982年生まれ、そして東京大学哲学科のご出身。
この時点でなんとなく面倒くさそうな予感(というか偏見)がしましたが、とりあえず読んでみました。
以下、感想など書いていきます。
あらすじ
おすすめポイント
社会生活・人間関係が面倒くさい、すべて捨てたい、と思っている人は、こんな生き方もあるのか、と盲を開かれる一冊です。
面倒くさい人間が真面目に七転八倒がする様が見れる、ある意味滑稽な本です。
滑稽なまでに真面目な人生観とその行きつく先
本書の感想を一言で言うと、この人めんどくさくて面白いなあ、です。
本書では、小屋で暮らすサバイバルスキルや、消費社会からの脱却など、こういった自伝にありがちなハウツーは一切描かれません。
ひたすら、高村友成さんの個人的な内面の世界のことが語られます。
著者の内面世界を語るキーワードは二つ、「死の観念」と「ホンモノ病」です。
死の観念
幼少期、高村さんは突然、死の観念というものに取りつかれてしまったそうです。
死ぬのが怖くなった、という単純なものではないようなのですが、このあたりの感じは読んでても、よく理解できませんでした。
とはいっても、この死を強く意識する性格が翻って、長じて人より「生」を強く意識する要因となったようです。
著者は自身の「生」のなかに死を内在させる方法を模索します。
(死と生)どちらかを切り捨ててはもはや全人格たりえない。常に全人格でありたい。自分自身でありたい。自分自身であるためには、死の観念を抑圧したり、ごまかしたり、忘れようとしたりすることはできない。(p126)
私の言葉で簡単に(薄く)言うと、死ぬことを忘れたまま、なんとなく生活を続ける薄っぺらな人生に耐えられなかった、ということでしょうか。
良く分かりません。
ホンモノ病
経歴からも分かるように著者は本人言うところの「暗記能力」「記号処理能力」に優れていたそうです。これにより、幼少期、著者の世界を明るく自由で愛に満ちていた、と語られます。ところが、中学・高校と進学するうち、著者は自身の「記号処理能力」をただ勉学という承認欲求の道具にしてしまい、これにより世界への愛と好奇心は失われます。
愛と好奇心が消失してから、何をやっても「自分はホンモノではない」「自分はニセモノである」という劣等感がついてまわるようになった。(p47)
「ホンモノ」は自分でも制御できないような純然たる興味によって静かに突き動かされていなければならない。いわば、狂人でなければならないのだった。(p49)
このあたりの考え方が、この方が人生に対し非常に誠実で真面目だったことを示している、と思います。
ただ、この性質はもちろん、社会生活においてはマイナスの因子にしかならないことは誰にでも分かるかと思います。
何を仕事にするにしても、溢れ出る情熱に突き動かされた「ホンモノ」でなくてはいけない、なんてことになれば、日本の多くの人は仕事をできなくなってしまいますよね。
そういう意味で、組織や社会の中で現実的かつ物質的に生活をする、というのは、ニセモノの人生に耐えることだとも言えるわけです。
それに著者は耐えられません。
社会不適合者の到達点・森の生活へ
さて、大学や就職といった社会の繋がりから離れ、しかし完全にホームレスするには生きていくだけで色々不便、そんな著者が辿りついた妥協点が、二束三文で手に入れた雑木林の土地に小屋を自作して住む、という半野人生活だったのです。
つまり、著者を森の生活へと誘った現実的な原因は、唯一つ、他者との繋がりや社会生活に意味を見出せない社会不適合者であったこと、だたそれだけなのですが、それを長々と、ともすれば難解で哲学的なセリフ回しで、切々と語る。
なんて滑稽で面白い人なんだ!(でも絶対一緒に飲みたくない)
念のため、一応言い添えますが、本書は決して''面白い''本、''笑える''本ではありません。
著者の高村友成さんは、自身の思考世界と現実世界の折り合いが、現在の生活で結合した様を、真面目に自伝として書いてらっしゃいます。
ただ、あまりにも真面目で堅物な語り口が逆にユーモラスに映る、というだけです。
決して、馬鹿にする意味合いはございませんので、悪しからず。
とはいっても、私のような都会に潜む脱落者からすると、著者の七転八倒の末の孤高な精神世界とその生活様式は、何とも羨ましいと言わざるをえませんでしたが、皆様はいかがでしょうか。
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