『クレオパトラの夢』神原恵弥シリーズ第2作目 恩田陸 | 【感想・ネタバレなし】北の大地で繰り広げられる人間劇と秘められた禁忌とは
本書は女言葉のイケメン、神原恵弥(かんばらめぐみ)が活躍する一連のシリーズの第2作目となります。
北海道の函館市がモデルと思われる、北国のH市を舞台に、ウイルスハンターである恵弥が「クレオパトラ」と呼ばれる
また同時に本書は恵弥の家族トラブルを巡る話でもあります。
不倫に失敗しつつある双子の妹、和見を東京に連れ戻すこと、口うるさい姉たちに厳命され、恵弥は北の大地に降り立ちます。
前作『MAZE』では、どこか踏み込みがたいオーラを見せていた主人公・恵弥が、妹との関係に翻弄される人間臭い一面を見せます。
前作では、どちらかというと翻弄させる側であった恵弥が、''手強い女''に翻弄される姿にはくすりとさせられます。
では、あらすじ、感想など書いていきたいと思います。
あらすじ
おすすめポイント
主人公と周囲の人間とのヒリヒリするような対決が見所です。
特に手強い女性が2人登場します。強い女性が登場する話好きな方におすすめです
登場人物
主人公:神原恵弥(かんばらめぐみ)
外資系製薬会社に勤める凄腕のウイルスハンター。
精悍・端正な見た目ながら女言葉で話す。
見たものを写真のように記憶する映像記憶能力、地図を3Dに変換して記憶する能力を持つ。
神原和見(かんばらかずみ)
恵弥の双子の妹。弁護士。不倫相手を追いH市にやって来た。手強い女その1。
若槻慧(わかつきさとし)
研究者。和見の不倫相手。恵弥がH市を訪れる直前に死亡する。
「クレオパトラ」という謎の言葉を手帳に残す。
多田直樹(ただなおき)
若槻恵子(わかつきけいこ)
若槻慧の妻。手強い女その2。
クレオパトラとは何か
本書の核となる謎「クレオパトラ」。これのために恵弥はH市まで足を運び、尾行されたり、襲われかけたりします。
なぜ、「クレオパトラ」という言葉に、そこまで過剰反応するのか。
若槻慧が死んだ家に残されたH市の新旧の地図はどういう意味を持つのか。
若槻慧は本当に事故死だったのか。
終盤にかけてその謎は明らかになっていくのですが、そこに至るまでのハラハラドキドキと和やか(とも思える)シーンの繰り返しに、またも、恩田陸、翻弄させやがって~、という気分にさせられました。
目まぐるしく変化する人間関係
本書の魅力の一つは、目まぐるしく変化するにあると言えます。
恵弥と和見の関係一つとっても、気の置けない家族であったり、不倫に傷ついた妹とその兄であったり、腹を探り合う敵であったり、しかしやはり切っても切れない絆の深い兄妹であったり、と場面場面で変化していきます。
石畳の上に延びる市電のレールが、闇の奥に続いていた。うっすらと雪が積もった石畳の上に、くっきりと二本の線が浮かんでいる。
あたしたちはレールのようね、と恵弥は思った。
同じところから並んで出発して、いつも隣にいた。でも、一生交差することはないのよね。(p45)
また、本書は若槻慧という故人を巡る物語でもあります。その人物像も事実が一つずつ明らかになるごとに、変化していきます。
・妻に離婚してもらえない、研究一筋の不器用な男
・妻の家の財産を利用し、不倫相手の和見の職業も利用しようとする狡猾な男
・自分の研究に異常な情熱を燃やす男
・病気を抱え、不倫相手に安らぎを求めた男
恵弥と和見、和見と慶子、慶子と多田、そして若槻慧、登場人物らが違う一面を見せるごとに、読者は人間が如何に奥深い生き物か知り、その人物に対する親しみが湧いてきます。
恵弥と和見の関係も、若槻慧の人物像も答えは一つではない、どれもが正解であり、誤っている、なぜなら、一人の人間を完全に理解することなどできないのだから、と言われているような気がしました。
今回ご紹介した本はこちら
神原恵弥シリーズの既刊と続刊
第1作目『MAZE』
第3作目『ブラック・ベルベット』