書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『ブラック・ベルベット』神原恵弥シリーズ第3作目 恩田陸 | 【感想・ネタバレなし】増殖する謎と巧みな伏線回収が魅せる巧みなストーリー

本書は凄腕のウイルスハンター・神原恵弥(かんばらめぐみ)が活躍する一連のシリーズの第3作目『ブラック・ベルベットです。

イケメンで切れ者で女言葉でずけずけしゃべる、という主人公の強烈なキャラクターと、それに負けない骨太なストーリーに魅せられたファンは多いのではないでしょうか。

また雑誌『小説推理』では、シリーズの続編となる『傾斜のマリア』が連載中とのことで、こちらも早く本になってほしいですね。

本書『ブラック・ベルベット』の舞台はT共和国、おそらく1作目『MAZE』の舞台と同じくトルコがモデルと思われます。

荒野が舞台であった『MAZE』とは対照的に、市街地・観光地を巡る物語となっています。

また、これまで登場した恵弥の同級生・や、チラチラ名前だけは出ていた恵弥の元カレ・橘くんも登場するなど、これまで読んできたファンには嬉しい1冊でした。

では、あらすじ、感想など書いていきたいと思います。

あらすじ

凄腕のウイルスハンター神原恵弥(かんばらめぐみ)は、画期的な鎮痛剤「D・F」の情報をある人物から得るため、ヨーロッパとアジアの狭間・T共和国を訪れる。また現地では、恵弥の高校時代の恋人・橘浩文との再会が待っていた。その上、知人・多田からは、T共和国にて消息をたった女性研究者の捜索を依頼されることとなる。「アンタレス」という謎の人物、黒い苔に覆われた死体の噂、「D・F」の正体。いくつもの謎が絡まり驚愕の真相が明かされる。

おすすめポイント 

これまでのシリーズで登場した人物(満・多田・慶子・橘・和見)が登場するシリーズのファンには嬉しい一冊です。

数々の謎が積み重なり、一つの真相に着地する巧みなストーリーが楽しめます。

シリーズのファンでなくてもこの一冊だけで十分楽しめるようになっています。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

登場人物

主人公:神原恵弥(かんばらめぐみ)

外資系製薬会社に勤める凄腕のウイルスハンター。

精悍・端正な見た目ながら女言葉で話す。

見たものを写真のように記憶する映像記憶能力、地図を3Dに変換して記憶する能力を持つ。

時枝満(ときえだみつる)

恵弥の高校時代の友人。T共和国で焼き鳥屋を何店舗か経営している。ぬいぐるみのような警戒心を削ぐ見た目で、意外に広い人脈を持つ。

多田直樹(ただなおき)

国立感染症研究所の研究員。恵弥にT共和国で失踪した女性研究者の捜索を依頼する。

若槻恵子(わかつきけいこ)

多田のいとこ

神原和見(かんばらかずみ)

恵弥の双子の妹。弁護士。

恵弥の元カレ・橘くんがついに登場!

女言葉ではあるものの性自認は男性、性指向はバイセクシュアルの恵弥の過去の恋人・橘については前作『クレオパトラの夢』で名前だけ登場していました。

(和見が高校時代の橘を指して)

「あの子、時々うちの前に来て、じっとあたしたちの部屋の窓を見てた。香折たちはあたし目当てだと思ってたらしいけど、ああいうのって自分が相手かどうか、直感で分かるもんだよね」

「恐ろしや、妹の直感」(『クレオパトラの夢』)

橘は大手ゼネコンに就職後結婚するも3年ほどで離婚したとのことで、恵弥との再会にドキドキしたファンも多かったのではないでしょうか。

しかし、久しぶりに会う橘の表情に恵弥は「澱のような濁った何かと、底知れぬ淵のような闇」を感じます。

橘の抱えた秘密は何なのか、というのも本作の謎の一つです。

シリーズの癒し担当・満の再登場

個性の強い登場人物が多い本シリーズですが、私は数少ない癒し系である時枝満が一番好きなのですが、1作目『MAZE』で料理上手な一面を披露した彼は、今では焼き鳥屋を複数経営する経営者となっています。

そのうえ、恵弥の現地でのナビゲーターを務めながら、意外な人脈の広さを発揮したりもします。

うーん、やはり切れ者だったか。

熊のぬいぐるみのような見た目で中身は切れ者、そのギャップが魅力ですよね。

今後もぜひ活躍してほしいキャラクターです。ついでにいつか和見と結婚してほしいです。

増殖する謎・謎・謎

あまりキャラクターのことばかり書いていると、キャラ小説みたいですが、もちろん本書の魅力は、散らばる謎とそれを見事に回収する巧みなストーリーにあります。

1作目『MAZE』2作目『クレオパトラの夢』で描かれた謎がシンプルに思えるほど、本作は幾つもの謎に包まれています。

・夢のような鎮痛剤『D・F』

・「アンタレス」と呼ばれる謎の人物

・黒い苔に覆われた死体、という不可解な噂

・失踪した女性研究者アキコ・スタンバーグ

・アキコ・スタンバーグが生前訪れたという老舗企業団体・オリベラ協会

・時折、暗い表情を覗かせる橘の秘密

読んでいるうちに、え、何が謎だったんだっけ、誰が怪しいんだっけ、と翻弄されてしまいます。

滅茶苦茶に広がった謎が最後には綺麗に一点に収束していく、その巧みなストーリー展開はやはり恩田陸といったところでしょうか。

スッキリと気持ち良い読後感が味わえます。

蛇足ですが、本書に登場する創業100年以上の企業が加盟するオリベラ協会は、おそらくエノキアン協会がモデルかと思われます。

実際は創業100年ではなく200年が加盟の条件で、日本からは酒造の月桂冠や伊勢名物の株式会社赤福も加盟しているそうです。すごいですね。

エノキアン協会 - Wikipedia

今回ご紹介した本はこちら

神原恵弥シリーズの既刊

第1作目『MAZE

第2作目『クレオパトラの夢