『ルビンの壺が割れた』宿野かほる | 【感想・ネタバレなし】何気ないフェイスブックでの会話が衝撃のラストをもたらす
Facebook上のやり取りだけで進む小説、というところが宮本輝『錦繍』を思い出しますが、こちらはそんな美しい話ではありませんでした。
そもそも手紙と違い、SNSのやり取り(しかも長文)、というのはどこか不穏な空気がするものですよね。
手紙は長文のほうが信用できる気がするけど、SNSは短文のほうが信用できる気がする、というのは私の偏見ですが、本書は、SNSのそういったなんとなくいや~な感じを上手く出していて凄いなと思いました。
では、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
Facebookに投稿された1件のメッセージ。かつての恋人同士はFacebook上で偶然出会い、やりとりを始める。同じ大学の演劇部だったときのこと、結婚式のこと、ぎこちないやりとりはやがて変容し、ルビンの壺のように違った一面を見せはじめる。
おすすめポイント
Facebook上の2人のやり取りだけで進む、というスタイルが見所です。
2人の関係が会話から徐々に明らかになっていく、というスリルが楽しめます。
結構短いのでさくっと読むのにもおすすめです。
男のメッセージの気持ち悪さ
結城美帆子様
ー突然のメッセージで驚かれたことと思います。
この一文から本書ははじまります。
メッセージの送り主は水谷一馬(みずたにかずま)。
この後、送り先の美帆子からの返信は無く、3通目のメッセージでようやく返信が来ます。
また、かつて、水谷と美帆子は婚約関係にあり、結婚式の当日に美帆子が逃げたことで結婚には至らなかったことが明かされます。
しばらくは、大学時代の演劇部での話など、ぎこちないながらも、一見他愛無いやり取りをする2人ですが、どこかぬぐいきれない気持ちの悪さが付きまといます。
不気味さの原因の多くは、水谷が送るメッセージにあります。
・なぜか3通目のメッセージの前に水谷は新しいアカウントに作成し直していること
・何度も結婚後の苗字や住所を聞きたがること
・(笑)をやたら使うこと(私の偏見です)
・思い出話のなかで、過去の自分をやたらと好人物に書くこと
・美帆子に比べ、メッセージが長いこと(私の偏見です)
水谷のメッセージは、所謂ロミオメールのようで、30年近くたった今でも美帆子に執着があることが、ぷんぷんしています。
一体2人の過去には何があったのか、と読み進めていくうち、あっと驚くラストに辿りつきます。
気持ち悪いといえば気持ちの悪い読後感なのですが、その一方でざまあみろ!という気分にもさせてくれます。
しかし、ラストが分かった状態でもう一度最初から読むと、水谷という男が最高に気持ち悪く怖いです。
最初は返信不要みたいなことを書いておいて、返信が来るまでしつこくメッセージを贈ったり、写真を引き伸ばして本人が映ってるか調べたり、投降した絵をプリントアウトして部屋に飾っていると言ったり、もうきもすぎる。
私も、ラストの言葉を叫びたくなりました。
今回ご紹介した本はこちら