『食堂メッシタ』山口恵以子 | 【感想・ネタバレなし】イタリアの料理を愛した清々しくたくましい女性シェフの半生を描く美味しい作品
今日読んだのは、山口恵以子『食堂メッシタ』 です。
婚活食堂のシリーズが地味に気になっているのですが、肩慣らしにと思ってこちらを先に読んでみることにしました。
食べ物出てくる話大好き人間としては、大当たりの作品でした。
では、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
おすすめポイント
出てくる食べ物がとにかくおいしそうなのがおすすめですが、深夜に読むことはおすすめしません!
さわやかな女性の成功譚が好きな方におすすめです。
稀有な女性シェフの半生
本書『食堂メッシタ』は二つの視点により進行します。
まず、メッシタの常連であるライターの笙子の視点、メッシタの主人である料理人・満希の人生、この二つが交互に語られます。
ライターの笙子が、稀有な店であるメッシタの主人・満希の半生を本にすることを申し出るのですが、このインタビューに答える形で満希の半生が語られる、という構図になっています。
1990年代に学生時代を過ごした満希は、友人の父親・大俵の経営するイタリアンチェーンでのアルバイトを通じて、料理人への道に目覚めます。
当時、イタリア料理は日本に根付いたばかり、日本人向けの味付けを施された店ばかりでした。大俵の経営するチェーンも日本人向けの味付けで、リーズナブルにイタリアンを提供することで成功していました。
アルバイト先で頭角を現す満希ですが、しかしじきに本物のイタリア料理を学びたいと志します。
後に、イタリアの調理師養成学校から帰国した満希に大俵は言います。
「分かるよ」
大俵は大きく頷いた。
「みんな本場の味を目指してるんだよ。フランス料理も、イタリア料理も、その他の国の料理も。ただ、今までは日本風にアレンジしないと経営が難しい面もあった。でも、これからはそれも可能になるはずだ。君の時代には……」
満希はその時、生まれて初めて「時代」という概念を身近に感じた。
このあたりの、時代に即したストーリーになっているところに説得力があります。
アルバイト先の社長が友達の友人でその伝手で留学まで出来た、というのは多少ご都合主義的ですが、もちろんそんな甘いことばかりでもなく、帰国後、満希ははじめて入ったイタリアン料理店「トラットリア・ジュリオ」を1年もたたず辞めてしまいます。
「トラットリア・ジュリオ」のシェフ・楠見は天才的ながら、人に厳しく、気に入らないと鍋を投げつけることもあります。
今だと完全にパワハラですね。
楠見のもとで、全く戦力にならなかった満希は、一度店をやめ、再びイタリアに武者修行の旅に出ることにします。
武者修行後、再び楠見の店に戻った満希は、対人スキルに問題のある楠見をフォローしながら、いつしか共同経営者とも言うべき立場に昇りつめます。
その後、独立し、開店したのが、「食堂メッシタ」です。
結構、さらっと書きましたが、行く先々での人々との交流や、行く先々で食べた料理の数々が細やかに描かれており、満希のたくましさ、すがすがしいまっすぐな性格に心惹かれること間違いなしです。
私の人生のお店について
私事ですが、独身時代、よく通っていたお店があり、メッシタはそこの雰囲気によく似ています。
そのお店はイタリアンではなくフランス系だったのですが、メニューの雰囲気や、女性一人でも入りやすかったこと、オーナーさんの接客などが、どことなく似ていました。
仕事がつらいときには、ちょっと高めのワインを飲んだり、秋にはジビエを食べに行ったり、今思えば良い独身生活でした。
なので、ライターの笙子が母親を亡くした痛みを「メッシタ」の料理が徐々に癒していく、というエピソードには大分感情移入してしまいました。
結婚して引っ越してしまったので、もう行くことはないのですが、たまに思い出してしまいます。
良いお店との思い出は人生の華ですね。
しかし、全編にわたり、イタリア各地方の郷土料理やその特色・背景が実に細かに描写されていることに驚きます。
イタリアは長く統一政府がなく、支配者がころころ変わったせいで、地方の特色が強いとは聞いていたのですが、これだけ細かにイタリア各地の料理を見せられたのははじめてでした。
今、この文章を深夜4時に書いているのですが、どんどんお腹が空いてきてちょっと後悔しています。
特に、メッシタの名物、生クリームが溢れるブッラータとプチトマトのサラダ、食べたーい!
深夜に読むことはおすすめしません!
今回ご紹介した本はこちら