書にいたる病

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『心が折れた夜のプレイリスト』竹宮ゆゆこ | 【感想・ネタバレなし】大学生、人生初の失恋、そして部屋の窓が閉まらない。少し不思議な学生時代を綴る青春小説

今回ご紹介するのは、竹宮ゆゆこ心が折れた夜のプレイリスト(新潮文庫)』です。

前回読んだ『いいからしばらく黙ってろ!』が面白かったので、こちらも読んでみました。

表紙の女の子がすごくかわいいですよね。

北村英理さんという方が装丁をされているそうです。

他のイラストも見てみましたが、透明感があって色がおしゃれで、こんな表紙にされたら誰でもついつい買ってしまいますね。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

失恋後、部屋の窓が閉まらなくなった。何度鍵を閉めても窓は開いている。
大学生の「俺」こと萬代の人生初の失恋、可愛い女の子と塩分の濃すぎるラーメン、そして変態すぎる先輩・濃見との出会い。不思議で何故か懐かしい一瞬の青春を切り取った小説。

 おすすめポイント 

 キャラ同士のテンポの良いかけあいが好きな方におすすめです。

 学生時代の軽いノリが全開の青春小説が好きな方におすすめです。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

いい意味での裏切り 

はじめに、めちゃくちゃネタバレしますが、この小説は恋愛小説ではありません!

実は私も表紙の女の子のあまりの可愛さと、あらすじの「最高に可愛い女の子とラーメン」という言葉に騙され勝手に勘違いし、エモーショナルでシャレオツな森見登美彦的な恋物語を期待して読み始めたのですが、見事に覆されました。もちろんいい意味で。

本書で起きる出来事は大きく二つ、''窓が閉じない事件''と''塩分依存事件''です。

窓が閉じない事件

大学生の「俺」こと萬代は、部屋の窓が閉まらなくなる、という現象に悩まされます。

鍵をかけたはずなのに、何度も確かめたはずなのに、帰ると窓が開いている。

この怪現象が怖くて怖くてたまらない萬代は一週間以上、自分の部屋に帰れずにいます。

そんなとき潜り込んだ飲み会で濃見秀一という先輩(ドM系変態)に絡まれ、あれやこれや事件に巻き込まれ、なんだかんだするうちに窓をスパンと閉じられるようになる、これはそういう話です。

なぜ萬代は窓が開いている状態が怖いのか、それは「窓」が象徴する外界がすべて萬代が手ひどく振られてしまった彼女に直結しているからです。

過疎地域から上京し、周囲に溶け込む行為に疲弊していた萬代にとって、‘’彼女‘’は世界と自分をつないでくれる始めての存在でした。

とはいっても、それは萬代の側からだけの話で、''彼女''にとっては自分が与えるものをただ享受しているだけのつまらない男だった、ということが回想での彼女の言葉からわかります。

''彼女''の不在によって開けっ放しになってしまった窓を、萬代はどうしても閉めることができません。

結局、失恋の痛手から3年近く抜け出せなかった、というダサい事実がこの事件の真相です。

ですが、変態・濃見は自分のあまりのダサさに落ちこむ主人公に寄り添ってくれます。

「本気で想える人間と出会えてさ、向こうも本気で想ってくれてさ。それを失くしたんなら、おかしくもなるよ。なんでそれが下らないんだよ。大変なことだろ」

常軌を逸した変態である濃見が何故か親身になってくたことや、この後で起きる嵐のようなハチャメチャな一夜が、ショック療法のように失恋の痛みを(無理やり)癒してくれます。

あんまり関係ないですが、悪友の定岡に対する感情を表現する「憎しみの旬」という言葉が何故か刺さりました。

超塩分依存事件

こちらの話は窓の事件に比べてオカルト染みていて、正直ちょっとゾッとしました。

可愛い女の子とラーメン食べにいくほのぼのした話だと思っていたのに……。

悪友・定岡にある日紹介されたのは、三食ラーメンを食べるほどラーメン大好き女子・アナ雪(本名・穴雪)。

見た目も可愛い彼女は毎週のようにラーメンに誘ってくれます。

これは完全に俺のことすきなんじゃ?、と主人公は浮かれますが、そう上手い話はなく、ある日アナ雪は思いもよらぬ奇行を見せ、その後連絡を一切シャットダウンしてしまいます。

それからというもの、萬代は塩分に異様な執着を見せるようになります。

塩を溶いた水をそのまま飲むようになったあたりで、ようやく自分のヤバさに気付きます。

このころから塩分への異常な渇望と同時に、どこかに帰りたいという自分のものとは思えない得体のしれない感情に振り回されるようになり、困惑・錯乱のうえ、萬代は変態・濃見に助けを求めます。

萬代の身に宿る謎の渇望が導くまま海へと向かう二人は、巨大な塩水のなかで、''何か''を目撃したりしなかったりします。

結局、青春小説

結局、この物語がなんなのかというと、オカルト現象に悩むフツーの学生と大分変った変態の先輩がわちゃわちゃするのを楽しむ小説、ということになるのでしょう。

2人の息の合ったかけあいは漫才のようで、こんな人たちが学生のとき周りにいたら楽しかっただろうなあ、と自分の学生時代を懐かしく思い出します。

いつも斜め上の発言ばかりの先輩・濃見がラストのシーンで萬代に放つ「まともな」指摘には、就職難の時期に就活を行った身としては、苦笑を禁じ得ません。

萬代くん、恋愛やオカルトばかりに気を取られてないで、真面目に就活しろよ! 

今回ご紹介した本はこちら

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