書にいたる病

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『蒼海館の殺人』阿津川辰海 【感想・ネタバレ】洪水が迫る館で起こる連続殺人事件、悩める若き探偵に朝はやってくる!

今回ご紹介するのは、 阿津川辰海『蒼海館の殺人 (講談社タイガ)』です。

・2021本格ミステリ・ベスト10 国内ランキング 第1位
このミステリーがすごい! 2021年度版 国内編 第2位
週刊文春ミステリーベスト10 第2位
・ミステリが読みたい! 2021年度版 国内篇 第3位

と前作『紅蓮館の殺人』を凌ぐ評価ぶりです。

また、前作で探偵としての正義が揺るがされた葛城がいかに立ち直るのか、というのも見所です。

それではあらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

学校に欠席し続ける友人・葛城を見舞うため、僕こと田所は葛城家本宅を・青海館を訪れる。葛城自身が「嘘つきの一族」と称する家族と出迎えられる僕。しかし、豪雨による川の氾濫により、屋敷に水が迫るなか、連続殺人事件が発生する。頑なに探偵行為を拒む葛城に苛立つ僕。はたして、名探偵は復活できるのか。

 おすすめポイント 

伏線と論理の回収が見事なミステリです。

本作単体でも十分楽しめますが、前作『紅蓮館の殺人』を先に読んでおくと、より話が分かるかと思います。

 

注意! ここから物語の琴線に触れます

噓つきの一族・葛城家と田所の兄との邂逅

前作『紅蓮館の殺人』で探偵であることの意味と自らの正義を見失い、山奥の葛城家の本宅に籠ってしまった葛城を僕こと田所は見舞うことにします。

良家である故か、葛城いわく「嘘つきの一族」であるという葛城家の面々と田所は対面します。

出来過ぎたホームドラマのような一見和やかな葛城家のなかで、誰が何の嘘をついているのかが本作の鍵となります。

また、田所の兄・梓月の登場も読者には嬉しいサプライズです。

仲の良いとは決して言えない兄弟の丁々発止のやりとりも本書の見所でしょう。

洪水によるタイムリミットと探偵の不在

『紅蓮館の殺人』が山火事によるクローズドサークルだったのに対し、本書は洪水によるタイムリミットが設けられています。

大雨により氾濫した川が押し寄せるなか、次々と起こる連続殺人。

しかし探偵である葛城は全く事件を推理しようとしません。

謎を解くことで、家族のなかに犯人がいることを暴いてしまうかもしれない、このことが葛城を押しとどめています。

そして遂にあれほど嫌っていた''嘘''に葛城自身も加担してしまうことになります。

このとき確かに、葛城は自ら探偵であることを投げ捨ててしまったといえるでしょう。

探偵の復活

しかし、迫りくる危機のなかで他者の命を救うため自分の力を使わざるをえなくなったそのなかで、ようやく、自分の探偵としての役割をつかみ取ります。

「(略)暴いていいか、じゃないんだ。解いていいか、じゃないんだ。

今までも、、、、解いてはいけない謎なんて一つもなかった、、、、、、、、、、、、、、、、、、、ただ、、解いた後のことを考えなければいけなかっただけだ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

やることは単純だ、解いて、助ける。だってー」

名探偵はヒーロー、前作であれだけ足元を揺るがされた葛城・田所は自らの力(若さともいう)の使い道を定めることができました。

葛城が事件で担った役割は決して許されるものではありませんが、もがきながらも行く手を自ら定めた名探偵に、前作のかつての名探偵・飛鳥井も拍手を贈ってくれるのではないでしょうか。

前作からのパワーアップ

そして、『紅蓮館の殺人』でも発揮された精緻な伏線の張り方は本作で更にパワーアップしていました。

それどころか、登場人物全員が何らかの嘘をついている、という難しい状況と、その必然性をトリックに絡める、という、もはや、どうやったらこんな話が書けるのか著者の頭を少しだけ解剖させてほしいくらいです。

特に伏線はりが細かいので、2回3回読み返して、こんなとこにも伏線が~、とニヤニヤしたいです。 

今回ご紹介した本はこちら

前刊『紅蓮館の殺人』はこちら