『ゴールデンタイムの消費期限』斜線堂有紀 | 【感想・ネタバレ】元天才児たちが集められた箱庭での本物のゴールデンタイムを描く爽やかな青春小説
今日読んだのは、 斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』です。
この間読んだ『楽園とは探偵の不在なり』が面白かったので、こちらも読んでみることにしました。
才能というギフトを与えられた少年少女らを書くことで、人生の選び方の在りようそのものを表現した胸を打たれる小説でした。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
おすすめポイント
世間に見放されつつある元天才たちという設定ですが、青春小説の名に恥じぬ爽やかな読後感が味わえます。
才能とは何か、それは人生を賭けるに足るものか、そんなことを考えさせられる一冊です。
AIによる元天才児たちのリサイクル計画
本書『ゴールデンタイムの消費期限』では、かつて各分野の天才と呼ばれながら、現在ま結果を出すことができない、元天才児たちがあるプロジェクトに参加します。
・主人公・綴喜文彰 小説家
・真取智之 料理人
・秋笠奏子 ヴァイオリニスト
・秒島宗哉 日本画家
・御堂将道 棋士
・凪寺エミ 映画監督
彼らは雲雀博士の主導する「レミントン・プロジェクト」に参加するために集めらますが、その目的は、AI・レミントンとセッションを行うことにあります。
小説家である綴喜は、レミントンの提示するプロットに従い小説を書くよう求められ、ヴァイオリニストの秋笠は聴衆に響くとレミントンが判断した弾き方を教えられます。
膨大なデータを学習した特化型AIであるレミントンの指示に従えば、自身で創作するより世間に評価されるものをつくることができます。
もちろん、一部の参加者はこのプロジェクトに強く反発します。
しかし、反発するにしても順応するにしても、AIが弾き出す最適解とその見事さを見せつけられるごとに、それぞれが自分の才能に否応なく向き合わされることになります。
彼らの共通点は、才能と呼ばれる実態の無いものにそれまでの人生のすべてを捧げて戦ってきたことにあります。
14歳でベストセラーを世に出して以降、小説を出版できていない主人公・綴喜も、ある事件により、トラウマも痛みも、自分の感性の全てを小説に捧げた過去をさらけだします。
しかし、そうまでしても、レミントンが創り出したプロットの面白さを否定することはできません。
一体、人間のできることは何なのか、人間よりAIのほうが優れているのか、本書は一見、無慈悲な問いを投げかけます。
AIという鏡に映る青春
しかし、本書は結局、AIと人間を対立させるものとしては描きません。
レミントンは時に残酷に被験者の心の内を暴きたて、酷薄に''正しい''道を提示します。
しかし、それはAIが常に人間の鏡だからです。
AIという鏡に映った自分の姿を如何に受け入れるかが、本書を読み解く鍵なのではないでしょうか。
登場人物たちは、自らの才能とその欠如、それでも好きなことを続けたいという気持ちと始終、葛藤させられます。
そして、なぜ自分がそうまでして、しがみつかねばならないのかも。
レミントンを通して彼らは自分の本当の姿に向き合います。
自分と真摯に向き合い進むべき道を決める、これこそ本書が青春小説である証ではないでしょうか。
プロジェクトを終えた参加者たちは、それぞれの未来に羽ばたきます。
レミントンとのセッションにより更なる技術の向上を目指す者、自らの力だけで地べたを這いずることを選ぶ者、今までの道を捨て新しい道を選ぶ者。
しかし、その全ての選択が祝福に満ちています。それはどんな道であっても自分自身で選んだ道だからでしょう。
あっけらかんとしたメッセージにしてやられる
本書から私が確信したことは、AIが人間に敵対することはあり得ない、ということです。
なぜならAIも人間がつくるものだからです。
レミントンを作成した雲雀博士がプロジェクトを提唱した理由、それは「才能が無くなったくらいで、好きなものを失うのは寂しいから」という単純なものです。
才能を一切持ち合わせていない人間には、この言葉の本当の重みは理解できませんが、しかし、あれだけ作中で才能について散々悩ませながら、天からのギフトがあってもなくても、好きなことをやっていいじゃん、という何ともあっけらかんとしたメッセージを最後にぶっぱなしてくることに、してやられた感がありました。
私も、ものがたりが好きという理由で、こんな読むに堪えない読書ブログをやってるわけですが、それも別にいいのかな、という気にさせられてしまいました。
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