書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『輝ける鼻のどんぐ』エドワード ・リア(文)、エドワード ・ゴーリー(絵) | 【感想】恋の闇路を独り行く、輝ける鼻を持ち男のナンセンスで哀切な物語

今日読んだのは、大人向きのナンセンス絵本『輝ける鼻のどんぐ』です。

今持っている絵本の中でも、トップ10に入るお気に入りです。

エドワード ・リア

1812年のイギリスの画家・ナンセンス詩人で「不思議の国のアリス」で有名なルイス・キャロルにも影響を与えた人物です。

エドワード・ゴーリー

1925年、アメリカで生まれ、精緻な線画と『ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで』などの残酷で大人向きの絵本をつくったとでも有名です。そのユニークで唯一の作風故に熱狂的なコレクターを存在します。

あらすじ

愛しの''じゃんぶりー・がーる''の姿を今一度見るため、奇妙な光る鼻を身につけ、夜な夜な荒野をいく''どんぐ''のナンセンスで悲痛な恋の闇路。

 おすすめポイント 

大人向きの絵本をお探しの方におすすめです。

絵本とは思えぬ、滑稽かつ哀切なテーマと不安を煽る精緻な線画が融合した、ぜひコレクションしたい一冊です。

輝ける巨大な鼻

本書の主人公'''どんぐ''は、海のかなたから盥に乗ってやってきた''じゃんぶりーの民''の乙女''じゃんぶりー・がーる''と恋に落ちます。

しかし、''じゃんぶりーの民''はある日突如再び旅立ってしまい、彼らが去った後''どんぐ''は終に狂ってしまいます。

「かつて我にありし、なけなしのわきまえ、いまやことごとく失われたり!」

''どんぐ''は昼も夜も愛しの''じゃんぶりー・がーる''を求め彷徨い歩くために、樹の皮で編んだ巨大な鼻にランプを吊るすという異常な行動をとります。

訳者あとがきによると、エドワード・リアは、自分が醜男で、特に鼻が大きすぎることにコンプレックスを持っており、彼のつくる詩には鼻の大きすぎる男が繰り返し現れるそうです。

しかし、巨大な光る鼻をつけ、夜な夜な恋人を探し歩く男というナンセンスで荒唐無稽な物語に関わらず、主人公の先の見えぬ方向は哀切さに満ちています。

翻訳者・柴田元幸の文語調の訳

本書は英語の原文の下に、翻訳者・柴田元幸の役が付される形で書かれています。

本書が持つ格調高い文学の香りは、柴田元幸がリアの詩を文語調で訳したことと無関係ではないでしょう。

ゴーリーの神経質で見る者を不安にさせるような荒野や荒波の絵とあいまって、恋の狂気に落ちてしまった主人公の叫びがページを飛び越え響くようです。

輝く光が茫漠たる荒野を照らし、探せども探せども、恋人に再び逢うことはできない。

読者は、主人公''どんぐ''のおかしくも痛切な狂気に、胸を痛めずにはおれません。

とくにこちらの部分の訳は名訳だと思います!

め行けど 遂に空しく

じゃんぶりー・がーるに再び遭うは叶わず

狂おしく 彼は行く 恋の闇路を

原文

While ever he seeks,but seeks in vain

To meet with his Junmbly Girl again;

Lonely and wild -all night he goes,-

ちなみに、本作の先に『ジャンブリーズ』という姉妹編とも呼べる絵本があり、そちらは文語調ではなく、童話調で翻訳されています。

こちらを先に読んでおくと更に楽しめると思います。 

今回ご紹介した本はこちら

姉妹編『ジャンブリーズ』はこちら

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