『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ | 【感想】2019年本屋大賞受賞作、血のつながらない家族のいとも幸福な日々に涙溢れる
今日読んだのは、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』です。
’’泣ける’’と銘打たれた作品が苦手な人間がいる。私です。
泣けると豪語した物語に泣かされるのは悔しい。
なので、『幸福な食卓』『卵の緒』など著者のあたたかな家族の物語を何度も大切に読みながら、この2019年本屋大賞作を今日まで読まなかったのは、偏に怖かったからです。
そして、予想通り、予想をはるかに超えて、涙が溢れてしまいました。
でも、あの歌やあの歌を使うのは卑怯ですよー! そりゃ泣いちゃいますよ。
では、支離滅裂ながら、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
高校生の優子には、2人の母親と3人のいる。
幼くして母を亡くした彼女を、血のつながらない母と父たちは溢れんばかりの愛情を注いで育てる。一風変わった家族の豊かな日々と旅立ちを綴る幸せに満ちた小説。
おすすめポイント
とにかく幸福な小説です。
血がつながっていようがいまいが、家族を持つことの希望を感じさせてくれる小説です。
有名な曲の引用がしばしばあり、聞きながら読むと、いちいち泣けます。
映画化について
2021年10月29日(金)に公開だそうです。
主演・優子役は永野芽郁、奔放な性格の女性で物語のキーパーソン・梨花役は石原さとみ 。うーん、なんてぴったりなキャスティングなんだ。もうそれしか想像できない。
映画の公式サイトはこちら
映画『そして、バトンは渡された』オフィシャルサイト | 10月29日(金)公開
複雑な家族とキーパーソン・梨花
高校生の優子は「森宮さん」と呼ぶ30代の義理の父親と暮らしています。
そうなった経緯は複雑です。
優子のこれまでの家族をざっと書くとこんな感じです。
・実母:故人
・実父:水戸
・梨花:優子が小学校3年生のとき優子の実父・水戸と結婚、その2年後離婚。
・泉ヶ原:2番目の父親、梨花の再婚相手、金持ち
・森宮:3番目の父親、理科の再婚相手2、東大出のどこかズレたお坊ちゃま
こう見ると梨花がキーパーソンであることがよくわかります。
奔放で行動力があり、一つところにはじっとしていられない、エネルギーに満ち溢れた女性、梨花はそんな魅力を持つ女性です。
著者の短編「卵の緒」に登場する母親もこういう女性だったように思います。
次々に再婚する梨花により、父親も変わり、そのたびに生活もがらりと変わります。
そして、3番目の父・森宮と結婚後、突如梨花は離婚届だけ残して消えてしまいます。
明日が二つになるという希望
しかし、いつも突拍子がなく、破天荒で計画性のない梨花の行動に、優子は腹を立てたり恨んだりしません。
物語を読み進めると、一見、破天荒に見える梨花の行動一つ一つが、優子への深い愛情に根差しているものと分かってきます。
金満家の泉ヶ原と結婚したのは、優子のピアノを弾きたいという願いを叶えるため。
森宮と結婚したのは、自分亡き後の優子の未来を託すため。
そして、梨花の愛情に応えるように、歴代の父親たちも優子にあらん限りの愛情を注ぎます。
なぜ、彼らはそこまで血のつながらない子どもに愛を注げるのか。
「(略)梨花が言ってた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって」
「明日が二つ?」
「そう。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない? 未来が倍になるなら絶対にしたいだろう。それってどこでもドア以来の発明だよな。しかも、ドラえもんは漫画で優子ちゃんは現実にいる」
明日が二つになる、そんな風に親になることを考えてみたことはありませんでした。
物語はほぼ優子の視点で進みますが、冒頭と最後の章だけ、3番目の父親・森宮の視点で描かれます。
冒頭で描かれる朝は、優子の結婚式の朝、最後の章はこれまでの父親と梨花と共に迎える結婚式の情景。
優子というバトンを渡された森宮が、最後の章で次の未来にバトンを託すことの幸福さが、冒頭と最後の章のみ、森宮の視点で描かれることで完成されます。
また、要所要所で差し込まれる歌、合唱曲「ひとつの朝」、中島みゆき「糸」「麦の唄」など、ついつい聞きながら読んでしまったのですが、それにも、盛大に泣かされてしまいました。悔しいなあ。
あと、森宮のつくるご飯がいちいち美味しそうなのは、さすが瀬尾まいこという感じでした!
今回ご紹介した本はこちら
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