『ヒールをぬいでラーメンを』栗山圭介 | 【感想】失恋・失職のどん底OLがラーメン道をひた走る。勇気づけられるお仕事小説。
今日読んだのは、栗山圭介『ヒールをぬいでラーメンを』 です。
食べ物がテーマの話は多いですが、女性がラーメン店を目指す!というストーリーは結構ニッチだと思い手に取りました。
主人公の性格が気が強く、上昇志向で、映え意識なところが、如何にも東京のOL風なのが、一見ラーメンという業界とはミスマッチで、そこが面白さになっていると思いました。
では、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
おすすめポイント
ラーメン店だけでなく飲食店経営の苦労や楽しさが物語としてさっと読めます。
主人公がラーメン屋を開いて成功!というような安易なストーリーでなく、きちんと飲食店経営の厳しさを描いている点が好印象です(とはいっても現実はもっともっと厳しいのだと思いますが)。
主人公のバックボーン
タイトルの通り、主人公・有希はミニスカートに高いヒールをかつかつ響かせ、ブランドバックを翻す、したたかで計算高い女性、典型的な東京のオフィスレディです。
大学の同級生3人が始めたベンチャー企業であった
しかし、その会社が上場するあたり、邪魔となった有希は、公費の不正使用(萩原も了承済だったのに)を理由に退職を迫られ、しかも当の萩原はアイドル崩れの女優と結婚 、しかも、
と、理由はちょっと不純ですが、この日から有希は一心不乱にラーメン道を歩み始めます。
ラーメン店というと、男性が脱サラして、どこかの店で厳しい修行してそのうち開業のちに大体失敗みたいなテンプレなイメージ(ごめんなさい!)があったのですが、実際に開業に至るまでの道筋が丁寧に描かれている点が興味深かったです。
有希の場合ラーメンの製法から店の経営までを教えてくれる学校に通い、その後学校の斡旋で、お店に研修という流れでした。このお店が物語の大部分の舞台となる『花水木』です。
飲食店経営の厳しさ
『花水木』での2年ほどの研修後、有希は自分のお店『らーめんsizuku』をオープンしますが、店はあえなく1年ほどで潰れてしまいます。
女性をターゲットにした罪悪感のないラーメン店をつくりたい、という有希の想いとは裏腹に、店は女性スタッフをアイドルのようにとらえる男性客でラーメンそっちのけで盛り上がり、スタッフ同士がSNSで喧嘩・炎上、有希は過労で入院。
店を営業し続けることの難しさがしっかりと描かれています。
会社時代の親友・ヨナが有希に突きつける言葉は、飲食店だけでなく何かしらの仕事に携わるものなら誰でもぐさっと刺さるのではないでしょうか
「結局、商売をしたかったのか、ラーメンをつくりたかったのかどっちなのよ?」
夢にチャレンジする姿に勇気づけられる
有希は開業して、わずか1年の店を閉め、古巣である『花水木』に戻ってきます。
結果としては、自分の店で萩原にリベンジするという目的を果たすことはできませんでした。
しかも、『花水木』には、尊敬する店長・野上だけでなく、折り合いの悪かった副店長の木之内もいます。
この副店長の木之内との衝突こそ、有希が『花水木』を飛び出すことになった原因でもありました。
しかし、木之内はスタッフに有希を紹介するとき、こう切り出します。
「門阪さんのことを知らないスタッフは聞いてくれ。彼女はわずか二年の修行で店を持ち、一年で店を閉めた。誰もが一年で店を閉めたということに目を向けるだろうが、俺はそう思わない。この人は勇気あるチャレンジをしたんだ。誰もが、''いつか''と思っている夢に迷いなく挑み、貴重な経験を積んでこの店に戻ってきてくれた。彼女の経験はきっと店の力になる。みんなも門阪さんに負けないよう仕事に励んでくれ」
前述したように、私も脱サラして飲食店経営してすぐ閉業、というストーリーに勝手に「失敗した」というテンプレな考えを持っていました。
でも、どんなことでもチャレンジしたことが尊い、そんな赤面するような恥ずかしい希望が本書には赤裸々に描かれています。
自分も何かにチャレンジしたいな、と素直に思わせてくれる物語でした。
書評1000記事!とかどうでしょうか? 無謀かな~。
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