書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『スイッチ 悪意の実験』潮谷験 | 【感想・ネタバレなし】メフィスト賞受賞作 自分以外の他人の破滅を呼ぶスイッチを渡された大学生6人の選択とは

今日読んだのは、 潮谷験『スイッチ 悪意の実験』です。

第63回メフィスト賞受賞作ということと、その刺激的なあらすじに惹かれ、気が付いたらレジに向かっていました。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

大学生の箱川小雪は、二回生の夏休み、友人と共にとあるアルバイトに誘われる。
それは、大学OBで著名な心理コンサルタント安楽是清が主宰する実験への参加だった。スマホにインストールしたアプリを作動させると、安楽が援助ベーカーリーへの支援が打ち切られる、というもの。アプリを作動しても作動させなくても、一ヶ月間報酬が支払われ、誰がアプリを作動させたか露見することもない。スイッチを押すメリットなどどこにも無いと思われていたが……

 おすすめポイント 

一見、軽薄なゲーム小説のようですが、犯人あてを主体としたミステリであり、 主人公が自分の人生を選択できるようになっていく様を描いた青春小説であり、何粒も美味しい作品です。

登場人物の描写に適度なユーモアがあり、この主人公でシリーズ化してほしいくらいです。

なるべくネタバレしないようにしますが、過敏な方はご注意ください。

純粋な悪意の証明実験

主人公・小雪が巻き込まれるのは、大学OBで著名な心理コンサルタント・安楽が主宰する「純粋な悪意」が証明するかどうかの実験です。実験の内容を簡単にまとめると、

  • 実験の参加者6人のスマホにアプリがインストールされる。
  • アプリを作動させスイッチを入れると、安楽が援助するパン屋「ホワイト・ドワーフ」への支援が打ち切られる。
  • 「ホワイトドワーフ」は安楽の援助が打ち切られると、閉店を余儀なくされる。
  • 期間は一ヵ月で、参加者には毎日1万円が支払われ、実験終了後更に百万円が支払われる。
  • 誰かがスイッチを押したとしても、実験は継続され、報酬は全員に全額支払われる。
  • 誰がスイッチを押したかは、主催者である安楽のほかに知らされることはない。
  • アプリの作動パスワードはそれぞれの誕生日

つまり、押すだけである一家を不幸にできるスイッチを渡されて、押しても押さなくても報酬が手に入る、という実験です。

はっきり言って、スイッチを押す理由が全くありません。

安楽は人を理屈も理由もなく傷つける「純粋な悪」の存在を研究したがっており、どこかでスイッチが押されることを期待しています。

もちろん、誰もがそれぞれのプレッシャーを抱えながらも、アプリを作動させることなく最終日を迎えます。

ところが、小雪大学図書館スマホを紛失した一瞬の隙に、誰かが小雪スマホのアプリを作動させ、スイッチを押してしまいます。

小雪スマホを手にし、パスワードである誕生日を知る機会は、参加者全員にあり得ました。

しかし、この状況でスイッチを押したのは誰なのか、なぜ今になって押したのか、大きな謎が立ち上がります。

さらに、パン屋「ホワイト・ドワーフ」を訪れた小雪らはそこで衝撃の事件を目の当たりにすることになります。

事態が混迷を深めるなか、小雪はスイッチを押した犯人捜しに乗り出すと同時に、自らの過去のトラウマとも向き合っていきます。

クールな主人公・小雪と軽薄な安楽の絶妙の掛け合い

本書の見所は、自分の行動を頭のなかのコイントスで決定しているというクールな主人公・小雪のキャラクターです。

幼いころのトラウマで、小雪は自分の選択が信じられず、行動を決める際は常に頭の中でコイントスをしています。

また学生にしては驚くほど自分の感情に抑制的で、泣くことさえコイントスで決めています。

そんな、小雪に対して、実験の主催者・安楽は言葉が軽く、軽薄で、メールの文章の軽さには読者でさえちょっとイラっとくるほどです。

しかし、軽薄さの裏にある「純粋な悪」への偏執的なまでのこだわりや、随所で見せる頭のキレがギャップとなって、目の離せないキャラクターになっています。

そんな、好対照の小雪と安楽の会話は、お互いが頭の回転の速く、キレがよく、読んでいて非常に気持ちいいです。

この二人をコンビにしてシリーズ化してくれないかなー、というのが切実な願いです。

もっとこの二人を見ていたいー!

今回ご紹介した本はこちら