『本のエンドロール』安藤祐介 | 【感想】一冊の本がつくられるまでの無数の仕事人たちの熱き情熱
今日読んだのは、 安藤祐介『本のエンドロール』です。
毎日、本を読んでいる私ですが、恥ずかしながら著者と出版社以外の存在を、意識したことがありませんでした。
映画ならエンドロールに携わったスタッフが流れますが、本の奥付には印刷所と製本所が記載されているくらいです。
本書は、"モノ"としての本が出来上がるまでの工程を追い、奥付というエンドロールの向こう側に隠れている無数の仕事人たちの熱いドラマを見せてくれます。
それでは、あらすじと感想を書いていきます
あらすじ
おすすめポイント
印刷会社や製本会社の現場を、詳細な取材をもとに描いており、読み終わると、紙の本を大切にしたくなります。
”モノ”としての本が出来上がるまでの過程を、ドキュメンタリーに逸れることなく、ちゃんとエンターテイメントに落とし込んで描いている点に好感が持てます。
営業である主人公がどんどんしたたかになっていく様も小気味よいです。
主人公・浦本の成長
主人公・浦本は冒頭で「印刷会社はメーカーです」と就職説明会に集まった学生に言います。
実は、私はメーカーに全く関係ない職業ばかり経験しているのでピンと来ないのですが、要するに、ただ紙にインクで文字を印刷しているんじゃなくて、 自分たちも本をつくっている一員なのだ、ということが言いたいようです。
対して、同じ営業部のエース・仲井戸は「印刷会社はあくまで印刷会社、メーカーではない」と言い切ります。
悔しい浦本は仕事で仲井戸を追い越す、という目標を立てますが、前半ではやる気が空回りで、ミスを連発、無理なスケジュールを現場に押し付ける形になってしまい、工場作業員の野末には「お前はただの伝書鳩だ」と言われる始末。
そんな浦本ですが、数々の難所を乗り越え、営業としてしたたかに成長していきます。
理想を熱く持ちながら、現実にも着実に対処できる仕事人へ、最後には、曲者で有名な編集者に「恐ろしい営業マンになりましたね……」と評されるまでになります。
それにしても、ちゃぶ台返ししてくる天才肌の装丁家や、一筋縄ではいかない編集者との丁々発止のやり取りなど、調整役が好きな私としては、かなり血が騒ぐというか、変に入れ込んで読んでしまいました。
印刷会社勤務でなくても、営業でなくても、組織で仕事をしている者なら、浦本の成長が我がことのように熱く感じられるのではないでしょうか。
一冊の本がつくられるまでの途方もない道のり
本書の舞台は主に印刷会社と出版社、あと少し製本会社です。つまり、主に本のハード面をつくっている方々がこの本の主人公です。
何となく全てが機械化されているイメージだったのですが、カバーの特殊な色は未だにベテランの手で調合していたり、印刷機械の設定も、その日の湿度や紙の調子で変えたりと、想像していたよりアナログな世界でした。
情報化情報化言われて久しいですが、案外アナログな世界はまだまだ健在なことが何だか嬉しいです。
また、DTPオペレーターという仕事も恥ずかしながら、本書ではじめて知りました。
本の骨組みをつくる仕事、とでも言えばよいのでしょうか。
世の中、大抵は知らない仕事、と改めて実感しました。
それにしても、印刷会社、製本会社だけでこれだけの人が関わっていて、この前の段階には、本の企画を立てる方や、編集者さん、著者ご本人、装丁家さんなどがいて、流通には、取次さん、書店員さん、材料から数えると、紙のメーカーさんなど、無数の人の手を介して、今、私の手元にこの一冊が届いているのだと思うと、ちょっと気が遠くなりました。
私はコミックは電子書籍、文字の本は紙、と決めているのですが、この本に宿る情熱の炎が消えない限り、紙の本はつくられ続けるんじゃないかな、と思いました。
ちなみに、私が文字の本は紙、と決めている理由は、ページをめくる速さが紙の方が圧倒的に早いからです。電子書籍でページをスライドするときの、あの僅かなモタつきに耐えられないんですよね……。
あれが、無ければ電子書籍も大歓迎なんですが……。
今回ご紹介した本はこちら