書にいたる病

ものがたり大好き主婦の読書記録

『しつこく わるい食べもの』千早茜 | 【感想】『わるい食べ物』 の続編エッセイ、コロナ禍のなかで食を愛する小説家は何を見て何を考えたか

今回ご紹介するのは、 千早茜しつこく わるい食べもの (ホーム社)』です。

本書は、同著作『わるい食べ物』 の続編エッセイとなります。

『わるい食べ物』の感想はこちら

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前回のエッセイでは、著者の官能的ですらある食べ物への愛に圧倒される思いでしたが、今回のエッセイでは少し迷いが見えました。

コロナの流行により、飲食店は自粛営業、食を愛する者として、小説家として、今何を書くべきなのか、分からなくなったといいます。

鋭い感性を持つ小説家が、この災禍のなかで、何を見て何を感じたか。

それでは、感想を書いていきたいと思います。

あらすじ

炊飯器をこよなく愛しながら保温機能は受け付けない、とんかつの脂身に戦々恐々とし、「おいしいでしょ?」の一言に落胆する、プールサイドの飲食は受け付けないくせに、ハンニバル・レクター博士の上質なカニバリズムには興味津々。
食欲旺盛なくせに腹を下しやすく、融通も利かない、偏屈な小説家が綴る美味しいだけじゃない食べ物へ想いと、コロナ禍のなかで生じたエッセイへの迷い。

おすすめポイント 

前回に引き続き、美味しいだけじゃない、嫌な思い出だったり、生理的に受け付けない食べ物の話がてんこもりで、美味し~いというだけのエッセイに飽きている方におすすめです。

コロナ禍のなかで、小説家の方がどう感じているか生の声が読める貴重な本だと思います。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

美味しい食べ物の話じゃないのに何故か共感してしまう

さて、前回の感想では、自分とのあまりの共通点の多さに驚きましたが、今回も、そうそう!と共感することがいっぱいでした。

特に炊飯器のくだり、保温機能が何かいや、という感覚にものすご~く同意しました。

うちも、炊いて余ったらすぐに冷凍してしまいます。

しかも、炊飯器を捨てて土鍋で炊くという断捨離ブームにいまいち乗れなかったところも同じです。

友人は、土鍋で炊いた方が早いし、慣れたら楽だよ~、とは言うんですが、本に没頭しがちな人間にとって、沸いたら弱火にして何分、むらし何分、みたいな時間を微分されるような作業はできないんですよね。

たまに、煮込み料理中に読書するという方を見かけたりしますが、一度、本に集中すると煮込んでることなんてスポーんと抜けてしまったりするので、私には無理です。

とにもかくにも、炊飯器を愛する方がいて、とても嬉しいです。

羊のこと

へ~、と感心してしまったのが、「冬と羊」という章です。

著者は冬になると無性に羊肉が食べたくなるそうです。

冬の衣服に使われる羊毛の匂いからなのか、身体を守る安心を求めてなのか、と著者は考察していますが、実はこれは全く理にかなっていて、中華料理や薬膳では、食材を「熱性・温性・平性・涼性・寒性」に分けていて、羊肉はそのなかでも「熱性」にあたる食材なのだそうです。

つまり、冬に羊肉を食べることは、体を温めるため、とても理にかなっているということなのですが、著者の体はそれを敏感に感じ取っているのだ、と感心してしまいました。

コロナ禍で食エッセイに求めるもの

前半では、時に楽しく時に愚痴っぽく、縦横無尽に食へのこだわりを語っていた著者ですが、途中から少し迷いを感じる文章になっていきます。

著者の住む京都では、コロナの流行により、愛着のあるお店になかなか通えなくなり、好きなパフェも食べられない、こんなときに食べ物のエッセイなんて書いていていいの?と自問自答します。

今作では、コロナ禍に関わる回に書いた日の日付を入れている。月二回のWEB連載だったため、世界規模での厄災の中、リアルタイムで文字をつむぐことに迷いが生じてしまった。

 担当T嬢の説得により、からくも連載は続くことになり、私は無事この本を手に取ることができ、とても嬉しく思います。

一読者として、おこがましくも今、小説家の方々に望むものがあるとすれば、それはただ、書いてほしい、という一言だけです。

私たち物語を糧に生きる人種は、何度も孤独な夜を、ただの文字の羅列によって乗り越えてきました。

そして、こんな災禍のなかにいて思いを馳せるのは、まだ記憶のあるリーマンショックのこと、就職氷河期のこと、幼くて思い出せないバブル崩壊のときのこと、未だ生まれてもない、戦後の混乱期のこと、戦中の悲惨さと人間の尊厳のこと、はるか遠い明治維新のこと、これらの時代のことを私は物語によって、かすかに触れてきました。

そう、思い返せば、大変じゃなかった時代はなかった! 

私たちはいつも困難で辛くて、でも毎回、何とかサバイブしてきたことを物語は教えてくれました。

私は、書かれたものの力を信じます。

なので、迷いなく、こんなときだからこそ、本という平和を私たちに飛ばしてくれることを願います。

一読者として、おこがましくも、そう願います。

今回ご紹介した本はこちら