書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『チーズと塩と豆と』角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織 | 【感想】4人の直木賞作家がヨーロッパンの都市を舞台に描く愛と味覚のアンソロジー

今日読んだのは、4人の直木賞作家のアンソロジーチーズと塩と豆と』です。

著者は、角田光代井上荒野森絵都江國香織という錚々たる面々。

角田光代は、スペインのバスク

井上荒野は、イタリアのピエモンテ

森絵都は、フランスのブルターニュ

江國香織は、ポルトガルアレンテージョ

それぞれの都市を舞台に、その土地の食と人々の豊かな愛の物語が詰まったアンソロジーです。

それでは、あらすじと感想を書いていきます 

あらすじ

4人の直木賞作家が描く、ヨーロッパの都市の食と人々の様々な愛。
家族、夫婦、恋人、物語を通して浮かび上がる土地に根差した味覚のすがた。

おすすめポイント 

食が絡む話が好きな方におすすめです。執筆陣が実力派ぞろいなので、裏切られません。

江國香織のエッセイでも取り上げられている一冊なので、併せて読むことをおすすめします。

江國香織のエッセイより

エッセイ「やわらかなレタス」にて、本書についてのエピソードが紹介されています。

テレビ番組の仕事で旅をすることになり、その打合わせのために、私はその夜そこにでかけたのだった。四人の作家(森絵都さん角田光代さん井上荒野さん私)がそれぞれヨーロッパの田舎を歩き、その土地で昔から食べられている物をたべ、「食」の周辺の人々と出会って(そういう旅を、アグリツーリズム)というのだそうだ)、その様子を撮影するだけじゃなく、四人が一編ずつ短編小説を書きおろし、それを監督の源孝志さんが現地でドラマにして撮る、という無茶苦・・・・・・じゃなくて驚きに満ちた企画で、(「方向音痴のこと、あるいは打合せの顛末」 

 

もともとはテレビ番組のお仕事だったということです。へー。

何か機会があれば、完成したドラマも見てみたいものですが、江國香織自身が無茶苦茶と言いかけてしまっているのが笑えます。

それぞれの作家の個性と都市の個性が融和する

並べて読むことで、それぞれの作家の個性が強調される点が面白かったです。

角田光代は凛々しく、井上荒野は野性的で官能的、森絵都はひたすら優しく、江國香織はクリスタルのように透明。

また、それぞれのヨーロッパの都市(というか田舎)のすがたが、そこの食べ物から見えてくるところも面白いです。

個人的には、角田光代「神様の庭」と、森絵都「ブレノワール」が気に入りました

どちらも、偏狭な田舎町の窮屈さから飛び出してきた若者が、自らのルーツと家族の絆を見つめなおすというストーリーなのですが、日本でもヨーロッパでも田舎の変な人間関係と窮屈さは変わらないんだな、と変なところで感心してしまいました。

特に「ブレノワール」は黒小麦すなわちそば粉のことで、日本にもなじみの深い食材なことが興味ふかいです。

森絵都の担当したフランス、ブルターニュ地方は小麦とブドウの生育限界で、代わりにそば粉のガレット(クレープ)とリンゴからつくられるシードルが有名で知られています。

この保守的な田舎を舞台に、母と息子の確執と愛を優しい眼差しで描いた物語「ブレノワール」を、私は特に推したいです!

今回ご紹介した本はこちら