『私は古書店勤めの退屈な女』中居真麻 | 【感想】自分で退屈な女と言う女は大抵退屈じゃない
今日読んだのは、中居真麻『古書店・小松堂のゆるやかな日々』です。
古書店とタイトルにあると本好きとしては何となく手に取ってしまいます。
あと、自分で退屈な女と言う女はだいたい退屈じゃないから!、と半ば反発半ば期待しながら読みはじめたのですが、やっぱり退屈な話じゃありませんでしたー。
でも、ある意味ありふれた不倫の話でもあるのかな。
それでは、あらすじと感想を書いていきます
あらすじ
おすすめポイント
あまり 起承転結のない話が好きな方におすすめです。
不倫・離婚というありふれた人間臭いドラマが、主人公のシニカルな語り口によって感傷を抑えられているので、ドロドロ恋愛ものが嫌いな方にもおすすめです。
ゆる~いおっちゃんとシニカルなヒロイン
本書の魅力は何と言っても、古書店「小松堂」の主人が醸し出すゆる~い雰囲気と、自分を退屈な女と言い切る波子のシニカルな性格の対比です。
夫の上司・加茂内と結婚4ヶ月目にして不倫、しかも不倫相手がタイに出張に行くと言えば自分をついていってしまうというトンデモ女なのですが、そんな大それたことをしている割には、全然悩んでそうに見えないのが波子のキャラクターです。
そんなことが夫にバレてしまっている状態でも、引きこもって小さくなっているのはむしろ夫の雅人のほうで、波子は家事をしたり、「小松堂」でアルバイトしたり、まあ自由にやっています。
もちろん彼女は彼女なりに加茂内との恋にハマりこんでしまって、善良な夫との間で揺れ動いているわけなのですが、そんな自分をどこか皮肉な目で自虐的に見ているようなそんな女性に思えます。
しかし、波子の冷静と情熱の間みたいな魅力に対して、不倫相手の加茂内の凡庸さは少し疑問。波子自身が、加茂内のちんちくりんさにはハッキリ気がついていることがよけいに救いようがない。
この男のどこが良かったの?、ともし聞けるなら波子ちゃんに聞いてみたいです。
対して古書店「小松堂」の主人の小松は、市役所を早期退職したバツイチ妻子持ちのおっちゃんで、目下の悩みは加齢臭と薄毛。
この小松さんに自分のスキャンダルを洗いざらい相談しちゃう波子なのですが、結構深刻な話なのに、小松さんはことあるごとに「ぶぶっ」と笑います。失礼です。
でも、こんな風にゆる~く受け止めてくれる人がいると、あまり深刻にならずにいられるかもしれませんね。
「そんな思い詰めた顔をせんでええでしょ」
「でも、世間では悪いのは私なので」
「世間なんてくだらないっすよ」
「え?」
このとき私は、小松さんが小さな神様に見えた。
なんにもなくなっても
この小松さんのゆる~い名言(?)の数々が、波子だけでなく読んでる者もほっとさせてくれます。
次のセリフなんて、小松さん以外が言ったら噴飯ものですが、このバツイチでハゲ気味のおっさんが言ったと思うとなんだか受け入れられる気もします。
「なんにもなくなっても生きてればいいんです。波子さんが生きてることで、なんかが生まれるんですから」
私も一応結婚しているのですが、結婚なんてクダラネーと割と頻繁に思います。
結婚前は責任がうんだらかんだら周りから言われるんですが、いざ結婚してみると大して独身のときと代わりなくて、あの結婚前のどったんばったんは何だったんだという感じです。
この間ふっと「私ひとりでも全然生きていけるわ~」と旦那の目の前で口走ってしまい、まじまじと見つめられちょっと焦りました。
でも、続けてると結構楽しいこともあったりするのが結婚生活です。
まあ、もし今後、波子のように避けられない恋で全部だめになっちゃうことがあっても、それはそれで次があるからいいじゃない、そんな達観した気分になれる本でした。
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