書にいたる病

ものがたり大好き主婦の読書記録

『百貨の魔法』村山早紀 | 2018年本屋大賞ノミネート作品、昭和のノスタルジー漂う百貨店に舞い降りる奇跡

今回ご紹介するのは、 村山早紀百貨の魔法 (ポプラ文庫 む 3-1)』です。

2018年本屋大賞ノミネート作品でもあるこの作品、装丁の華麗さも見所の一つです。

地方の百貨店を舞台とした連作短編で、戦後の復興と発展の象徴でありながら、時代の波に抗い切れず閉店間近と噂される星野百貨店を舞台に、懐かしさとほんの少しの奇跡が散りばめられた宝箱のような一冊です。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

風早の街に50年親しまれてきた星野百貨店には、神出鬼没のオッドアイの子猫を見つけると、願い事を叶えてくれるという伝説があった。
時代の波に抗い切れず、閉店が噂される百貨店で今日も働く、エレベーターガール、テナントの靴店の主、贈答品フロアのマネージャー、資料室の女性スタッフ、そして初のコンシェルジュ
百貨店を舞台に描かれる人々の願いと、ほんの少しの奇跡が織りなす夢のような物語。

おすすめポイント 

読み終わると、ほっこりするような温かい物語です。

いつもは触れられない百貨店のスタッフらの裏側が見られます。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

香る昭和のノスタルジー

幼少期、京都に住んでいたことがあるのですが、何かの折に四条通の大丸に母親に連れられて行った際、子どもごころにとても緊張しました。

化粧品のフロアも服飾品のフロアも、どこもかしこも綺羅綺羅しく、自分が場違いに思えて萎縮してしまいました。

しかし、大人になってから母親と大丸に何回か足を運ぶとき、そんな子どものときの緊張を懐かしく思い出しました。

百貨店という場所は、とても良いものが集められた大きな宝箱、"特別"な場所というイメージがあります。

本書に描かれる星野百貨店にも、そんな"懐かしさ"が漂っています。

今どきエレベーターガールが存在することも、郷愁を誘います。

戦後の復興の証として開店し、風早の街の人々の文化の中心たらんとする星野百貨店は、懐かしい存在であると同時に、その未来は明るくありません。

大型ショッピングモールやスーパーにおされ、経営は悪化、閉店の日も近いのでは、と噂されています。

それでも、働く人々にそれほどの悲壮感は感じられません。

皆、星野百貨店という場所を愛し、心のどこかで何とかなると感じている節があります。

それぞれが、それぞれの立場で職務を全うし、百貨店を守っている、郷愁のなかに優しい温かさを感じさせる物語です

百貨店の存在意義

本書の印象的なエピソードに桜色のテディベアの物語があります。

亡き母親が娘に贈った品であり、事故でボロボロになってしまったテディベアを何とか修理できないか、という案件が持ち込まれます。

贈答品フロアのマネージャー・佐藤は修理代を受け取りません。

そこには、単なる物の売買以上の関係があります。

「どんなに汚れても、傷つき古びても、再び三度綺麗になって、お子様たちの傍らに戻れるように。贈られた方の想いとともに、ずっとそばにあるように。そのための修理費は、いわば当館からのお誕生祝いの贈り物。いつまでも当館との絆が続きますように、という想いも込められております」

このある人の人生の一コマを飾るという百貨店の存在意義を丁寧に描いている点が、物語全体を優しくしていると思います。

大福の存在はどこに?

本書の唯一気になるのが、スタッフから"大福"と揶揄されていた現社長の息子の存在です。

一度、百貨店に来た際は子どもながらに横柄な態度を心配されていた彼が、この優しい物語にどう関わってくるのか気になりながら読み進めていたのですが、最後まで話に絡むことはありませんでした。

成長した彼がどんな人間になったか個人的には気になっていたのですが……。

それだけがちょっと残念です。

今回ご紹介した本はこちら

その他本屋大賞関係作の感想はこちら

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