書にいたる病

ものがたり大好き主婦の読書記録

『ミカンの味』チョ・ナムジュ |【感想・ネタバレなし】「82年生まれ、キム・ジヨン」の著者の新作! 枝から切り取られた後も、自ら熟す青い果実たちの日々

今日読んだのは、チョ・ナムジュ『ミカンの味』です。

食や文化などあらゆる流行が韓国から流れて生きているように感じますが、文学でもそ傾向が近年強くなったと感じます。

著者のチョ・ナムジュは、『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ベストセラーとなっている作家ですね。

私はこちらのほうは未だ未読なのですが(ショックを受けそうなので)、まず、こちらの新作を読んでから、と思い購入しました。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

同じ映画部に所属するソラン、ダユン、ヘイン、ウンジはいつも4人一緒にいる女子中学生。凡庸な自分にコンプレックスを抱くソラン、成績優秀ながら病弱な妹に両親の関心を奪われているダユン、事業に失敗した父親に苛立つへイン、親友に裏切られた過去を持つウンジ。それぞれの事情を抱える少女たちは、時に傷つけ合いながら友人となっていく。そして、中学3年生の直前、済州島に旅行に行った4人はある約束を交わし、その証としてタイムカプセルを埋める。

おすすめポイント 

韓国の思春期の少女たちのリアルを感じることができます。

韓国のいびつな学閥構造と男女格差、経済格差のなかで成長する少女たちの姿が、痛々しくもみずみずしい筆致で描かれる紛れもない青春小説です。

悩むだけではない力強さを感じさせる青春小説が好きな方におすすめです。

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

韓国の男女格差の現状

日本でもシングルマザーに対する偏見や、夫婦間の男女格差がまだまだ残っていますが、韓国のそれは日本とはまた違ったニュアンスがあると感じました。

シングルマザーである母と祖母に育てられたウンジはおおらかな少女ですが、小学生のときに親友だったハウンに特に理由なくいじめを受けます。

終に屋上に閉じ込められ熱中症を起こしたウンジに、母親は学暴委(学校暴力対策自治委員会)に訴えますが、その夜加害者であるハウンの父親が訪ねてきます。

母親には目もくれず、ウンジの父親はどこかと尋ねるハウンの父親に、ウンジの家族は不愉快な思いをします。

「ウンジの父親はいません」

「ウンジのお父さん、まだお帰りじゃないんですか」

(略)

「子どもたちにちょっと問題が起きたというので。男同士ビールでも一杯やりながら腹を割って話せたらと思いまして、こうして恥を忍んで伺いました」

子ども同士の問題くらい、男同士ビールでも一杯やりながら腹を割って話せば解決すると根拠なく信じる男ちょっと想像ができません。

日本であれば、応対したのが母親であっても、まずはじめに謝罪か言い訳をするんじゃないかな、と思いました。あくまで男同士で話さないといけないという感覚が興味深いです。

また、へインの父親はもともと裕福な事業家ですが、仕事仲間に資金を持ち逃げされ家族は狭いアパートに引っ越しを余儀なくされ、母親がパートを掛け持ちしながら家計を支えています。

それでも、へインの父親は当然のように、自分と弟の食事の世話をへインに求めます。

また、へインの進学先について夫婦間でもめた際、たまらず部屋に戻ろうとへインに父親はこう言い放ちます。

「イ・へイン! おまえはお父さんに挨拶もしないで部屋に戻るのか?」

へインは向き直って頭を下げた。

小説のなかとはいえ、こういうやり取りが2000年代に交わされていることが驚きです。

韓国の厳しい進学事情

本書から伝わるのは、韓国の子どもたちが激しい競争社会に身を置いているという事実です。

少しでも良い高校に進学させるために親は必死になります。

へインの父親は、娘をソウル市に住所が無いと進学できない高校に入れるために、伯母の家に偽装転入します。

また、ソランの同級生は、少しでも良い環境を求めて次々引っ越していってしまいます。

子どもの進学のために、引っ越しや偽装転入を行う、こういったことは韓国ではごく普通のことのようです。

家族の経済事情や、家族との関係、自分の学力、友人との関係、様々な要因が自分の将来を漠然と決めていく閉塞案が本書からは感じられます。

みずみずしい青春の味

しかし、そんな閉塞感のなかでも、少女たちの成長はみずみずしく、そしてかけがえのない輝きを放ちます。

ソランはやっと実現した4人での済州島旅行で出会ったミカンの実にその輝きを垣間見ます。

緑色の時に収穫されて一人で熟したミカンと、木と日光から最後まで栄養分をもらいながら育ったミカン。枝から切り取られたあと、限られた養分だけでうま味を増しながら熟す実もあるんだな。私は、あんたたちは、どっちに近いんだろう。

たとえ、木から養分を十分にもらえず切り離されても、自分自身で熟そうともがく青い果実たちもいる。

本書は、傷つけ合いながらそれでも連帯して生きようともがく全ての人への熱く静かなエールだと感じました。

今回ご紹介した本はこちら