『ブルーローズは眠らない』市川憂人 | 【感想・ネタバレなし】マリア&漣シリーズ第2弾!青いバラ咲き誇る密室には切り落とされた首と縛られた生存者が
今回ご紹介するのは、市川憂人 『ブルーローズは眠らない』です。
シリーズ第4作『ボーンヤードは語らない』が2021年6月に発売されるのに合わせ、精緻に編み込まれた本格ミステリである本シリーズの魅力をご紹介したいと思います。
類まれな美貌と怜悧な頭脳(とだらしがない性格)を持つ警部、マリアと冷静な部下、漣のコンビが活躍するシリーズの第2弾です。
前作に引き続き”密室”と大がかりな”ミスディレクション”が仕掛けられます。
ここまで気持ちよく騙してくれる本格ミステリは、なかなか他に見つけられないんじゃないかと思います。
少し残念なのは、本シリーズは一作目から読むことを念頭に置いて書かれているふしがあり、単独で読むと世界観を掴むのに少し難儀します。
ので、一作目が未読の方はぜひそちらから先に読むことをおすすめします!
第1作目の感想はこちら↓
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
- あらすじ
- おすすめポイント
- 魅惑的な”密室”と青いバラ
- 大がかりな”ミスディレクション”
- 青いバラが象徴する永遠に失われた幸福
- 今回ご紹介した本はこちら
- 第1作目の感想はこちら
- 第3作目の感想はこちら
- 第4作目の感想はこちら
あらすじ
そこは遺伝子工学を研究するテニエル博士のその妻子が住まう館だった。
束の間の幸福な時を過ごすエリックとテニエル一家だが、嵐の夜、何者かの手によって惨劇がもたらされる。
一方《ジェリーフィッシュ》事件後、閑職に回されたマリアと漣のもとに、テニエル博士とクリーヴランド牧師を調査してほしいと依頼が来る。2人は不可能と言われた「青いバラ」を同時期に作成し注目を集めていた。しかし、直後、施錠された温室内でテニエル博士の切断された首が発見される。扉には血文字、そしてバラの蔦に覆われた密室のなかには、縛られた生存者が残されていた。
おすすめポイント
”密室”、”ミスディレクション”など、本格ミステリ特有の大がかりなトリックを楽しみたい方におすすめです。
個性的なバディものの推理小説や海外ドラマが好きな方にもおすすめです。
青いバラが何故不可能かなど、科学的な解説が分かりやすく書いてあり勉強になります。
魅惑的な”密室”と青いバラ
本格ミステリというのは、いくつかの型が存在しているという意味で小説のなかでも特殊なジャンルです。
”アリバイトリック”、”時刻表もの”、”クローズドサークル”、”解体殺人”、”倒叙ミステリ”、こういった《型》のなかでアレコレ頭を捻って謎をつくっては、読者の前で解いてみせるお遊びです。
私たち《本格》に夢中になる人間は皆この遊びに囚われてしまった一族と言えます。
前回に引き続き、特に”密室”は数えきれないほどの作品が生まれた魅惑的な《型》です。
著者はこの魅惑的な謎にご執心のようで、前作も今作も”密室”をテーマとしています。
この魅惑的な謎に、まず目が吸い寄せられてしまいます。
密室ものの最大の問題は、
・なぜ犯人は現場を密室にする必要があったのか
ということなのですが、本書はそのあたりが少し甘いところがあるのですが、ギリギリ上手く潜り抜けていると私は思います。
しかし、この少し甘いところも、”密室”自体が、作品全体に仕掛けられた罠から読者の目を逸らすための仕掛けでしかないので、まあ仕方ないとも言えるでしょう。
”密室”にウンウン唸っている間に、いつの間にか作品全体に仕掛けられた罠にはまってしまった、それが本書を読んだ後の率直な感想です。
大がかりな”ミスディレクション”
これも前作同様、作品全体に読者の目を眩ます大きな騙しが施されています。
本格を読み慣れたカンの良い人なら、かなり最初のほうで、ん?と違和感を覚えると思います。
この”ん?”をもう少し踏み込んで考えられていたら、物語の全体像がもっと早く掴めたと思うのですが、前述した"密室"の謎があまりにも魅惑的だったので、すっかり騙されてしまいました。
青いバラが象徴する永遠に失われた幸福
現実の世界ではすでに「Applause(喝采)」と名付けられた青いバラが誕生していますが、本書のなか、80年代のU国では、まだ不可能の代名詞です。
そんな中、二人の人間が同時に青いバラを作出する、という不可能事が発生するところから物語ははじまります。
テニエル博士の青いバラ「
一方クリーヴランド牧師の青いバラ「天界」は淡い青で透明感と穏やかさや感じさせるものです。
この正反対の印象を持つバラが、
本格ミステリとしても一流ですが、一つの悲劇の物語としても心に残る名作です。
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