書にいたる病

活字中毒者の読書記録

叙述シリーズ3弾!爆破テロによりタワーに取り残されるマリア!透明な迷宮に閉じ込められた4人の男女を襲う惨劇と哀しき硝子鳥の秘密

今回ご紹介するのは、市川憂人『グラスバードは還らない』です。

シリーズ第4作『ボーンヤードは語らない』が2021年6月に発売されるのに合わせ、精緻に編み込まれた本格ミステリである本シリーズの魅力をご紹介したいと思います。

第3弾となる本書では、マリアと漣がはじめて単独行動することになります。

ガラスの迷宮に閉じ込められた4人の男女と世にも美しい硝子鳥グラスバードの秘密。

名探偵コナンの映画ばりの連続ビル爆発とそれに巻き込まれるマリア、冷静な仮面が剥がれかける漣

前作と同様精緻に編み込まれたトリックと、まるでアクション映画のようなハラハラ感を同時に味わえました。

シリーズを追うごとに、どんどん進化している気がします。 

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

不動産王ヒュー・サンドフォード希少動植物の闇取引に関わっていることを掴んだマリアと漣は、捜査打ち切りの命令を無視して、サンドフォードタワーの最上階の邸宅へ侵入を試みる。ところが、最上階への非常階段に辿り着いた矢先に、なんとタワー内で爆破テロが発生。マリアはタワー最上部に取り残されてしまう
同時刻、ヒューの所有するガラス製造会社の関係者4名が、ある場所で目覚める。
そこは、突然壁が透明になるガラスの迷宮だった。どこからか紛れ込んだ硝子鳥グラスバード「答えはお前たちが知っているはずだ」というメッセージに怯えるなか、惨劇がはじまった。

おすすめポイント 

爆破テロにより、分断されたマリアと漣。はじめて単独行動を見せる作品なだけに、お互いを信頼した連携プレーが光ります。

相変わらず、精緻なストーリーコミカルな会話のギャップがたまりません。

ちょっと意外な人がマリアに急接近するという見逃せない作品です!

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

ガラスの迷宮と”ミスディレクション

著者はよほど密室とミスディレクションを愛しているようです(ただ今作は密室というよりクローズドサークルものと言った方がいいかもしれません)。

特にミスディレクションは、「この著者はよくミスディレクションを扱う」と認識されると、こちらも身構えるので、なかなか連続で作品にし辛いと思うのですが、今作でも大胆にも大がかりな”騙し”を仕掛けてきました。

また、今回の密室は何と”突然透明になる壁で覆われた迷宮”です。

前作『ブルーローズは眠らない』の青いバラの密室”も魅惑的な響きですが、今作は海外サスペンス映画の舞台みたいで、迷宮のなかに閉じ込められた4人の男女が一人また一人殺されていく恐怖とその巨大な謎に、脳汁ドバドバ出まくりでした!

これほど、本格ミステリの《型》をぶち込んでくるなんて、本当にミステリを愛しているんだな~と素直に感動してしまいました。

ただ、このミスディレクションがありなの?とちょっと複雑な気持ちにもさせられました。

このトリックがフェアかフェアじゃないかはファンの間でも意見が分かれるのでは?と思います。

ただ、話としては、シリーズの中で一番面白かったです!

 《硝子鳥(グラスバード)》の哀しい歌声

哀しい結末に終わることの多い本シリーズですが、今回の真相は特に悲劇的でした。

シリーズ第1作目『ジェリーフィッシュは凍らない』の感想でも、「犯人の動機が弱い」と指摘している方もいました。

本書の動機もそう批判する人々からは「弱い」と映るかもしれません。

そういった方は、著者がトリックのためにストーリーを書いていると批判します。

しかし、私はそうは思いません。

お互いの名前も知らず、ただ何度か言葉を交わしただけの関係。

ただ人生のひとときを慰めあっただけの関係。

それだけの関係でも、人は命をかけられる。

そのことを著者は信じているような気がしてなりません。

本書の硝子鳥グラスバードの歌声が哀しく美しいのは、残酷な現実と、人間の良心を信じる心がせめぎ合う証だと私は受け取りました。

キャラクターもトリックも進化し続ける本シリーズ、次作が非常に楽しみです。

今回ご紹介した本はこちら

第1作目の感想はこちら

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第2作目の感想はこちら

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第4作目の感想はこちら

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