書にいたる病

ものがたり大好き主婦の読書記録

『おれたちの歌をうたえ』呉勝浩 | 【感想・ネタバレなし】あの日確かに繋がった歌声をおれたちは今に運べるか、昭和と令和を行き来する骨太の大河ミステリー

今回ご紹介するのは、呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』です。

昭和51年令和元年を行き来する骨太のミステリーというかピカレスク

無邪気であれた幼い日々と残忍な今の容赦のない対比やめまぐるしい展開、暴力描写、圧倒的な物量に押しつぶされそうになりながら夢中で読みました。

最近は古内一絵の「マカン・マランシリーズ」など優しい物語を多く読んでいたので、こういうバイオレンスな小説を読むとその落差に眩暈がするようです。それもまた楽しい。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

元刑事の河辺のもとに、ある日かかってきた見知らぬ電話。
それは、かつての友人・サトシの死を伝える電話だった。
サトシが最後を迎えた松本市に向かった河辺は、サトシの世話をしていたチンピラの茂田と出会う。
茂田と共にサトシの遺した暗号の謎を辿りはじめる河辺の記憶は、40年前の事件へと遡っていく。
「栄光の5人組」と呼ばれた無邪気な少年時代、忘れ難い友人たちとの日々、真っ白な雪と死体、あの日一体何があったのか。

おすすめポイント 

骨太でバイオレンス満載の男臭い小説をお求めの方におすすめです。 

長野県松本市が主な舞台になるので、土地勘のある方はぜひおすすめです。

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

元刑事とチンピラのコンビ

物語は、元刑事の河辺とチンピラの茂田が、金塊と40年前の事件の真相を追う形式で進んでいきます。

河辺は今は昔の後輩の伝手でデリヘルの運転手をやっているやさぐれた初老の男です。

生活は崩れ切っていますが、昔の性から、用心深く慎重、駆け引きにも長けた老獪な男です。

対して茂田は、多少勘は良いものの、短絡的でキレやすく、若さ全開のチンピラ

初対面では、まんまと河辺に煙に巻かれた挙句、2時間も放置プレイ(笑)、回収され兄貴分のボコられてしまいます。

こんな二人ですが、河辺の友人・サトシの遺した暗号が指し示すと思われる五百万相当の金塊を見つけださないと、怖いお兄さんたちにピー!されるという段になり、ようやくバディらしくなっていきます。

もったいぶった物言いの河辺にいちいちイラつきキレる茂田を煽ったりなだめたり、その若さを眩しく思ったり、二人の関係の変化もこの作品の見所です。

無邪気な過去と冷酷な真実

暗号を解くことは、40年前のある陰惨な事件の真相を追うことに直結しており、河辺の前に記憶の奥底に沈めていた過去と残酷な現実が次々と立ちはだかります。

「栄光の5人組」と呼ばれた友人たち、慕っていた先生、憧れていた兄貴分との無邪気な日々。

妹分の報復のために、喧嘩をしに出掛けた懐かしい記憶。

過去の日々が懐かしく輝かしく描かれるほど、対比して描かれる現在の姿が残酷に迫ります

自分の見ていた友人の姿は本当の姿だったのか、憧れのあの人は本当に自分の信じていたような人だったのか。

あの時、自分がした選択は間違っていたのか。

後悔と絶望とどうしようもない現実、あきらめたはずの過去に何故まだこんなにも執着してしまうのか

一人の男が人生という泥沼をもがきながら一歩でも前に進もうとする様が痛々しく見ていられないのに目が離せなくなります。

そんなものをおれたちは、人生とは呼ばない

そでの部分に書かれた言葉です。

では、「そんなもの」とは何なのか、「人生」とは何なのか、この物語は全身全霊で訴えかけてきます。

無邪気な子どもだったときに信じていた”美しい未来”は無惨に潰され、残されたのは落ちぶれ果てた自分と過去への後悔と失望、かつての友への疑心

それでも、喉から血しぶきを挙げるように河辺は「犯人」に叫びます。

「あれはひどい事件だった。最低の出来事だった。誰もが無様にしくじって、取り返せない不幸を背負った。たしかにそうだ。簡単に説明なんかつきやしない。何か大きなものの力が働いていたのかもしれない。、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、だが、よく聞け。だとしても、断じて運命なんかじゃない。そんなあやふやなものを、おれはぜったいに認めない。あんたのいうとおり、おれたちは愚かな部品だ。それも錆びついて、もうすぐ、棄てられる不良品だ。大きな仕組みなんてのは、死ぬまで理解できやしないだろう。だがな、これだけはいい切れる。二十年前も、四十年前も、生きていたのはおれたちなんだ」

”さだめ”、”運命”、流されてしまえば楽な言葉を主人公は断固拒みます。

私たちは零落したように見える主人公・河辺が、自身の信条に恥じる行いをしなかったためにここまで来たことに安堵します。

そして、疑い、傷つけ合い、悲惨な経過を辿ったとしても、確かに、あの日あの時、輝くものが彼らを包んでいたこと、そして、それが色褪せることは決してない、と。

辛いことも山ほど突きつけられた本書ですが、読後は読んで読んでよかったと思わせてくれました。

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