『女王さまの夜食カフェ - マカン・マラン ふたたび』古内一絵 | 【感想・ネタバレなし】マカン・マランシリーズ第2作。戻ってきたシャールさんの小さな美味しい魔法
今回ご紹介するのは、古内一絵『女王さまの夜食カフェ - マカン・マラン ふたたび』です。
大人気の「マカン・マランシリーズ」の第2弾!
第1作の感想はこちら↓
マカン・マランはインドネシア語で「夜食」の意味。
ドラァッグクイーンのシャールさんが営む夜食カフェ「マカン・マラン」に訪れる人々は大なり小なり人生の苦しみを背負う人々ばかり。
そんなとき、シャールさんのつくる優しい料理とちょっとした言葉が、背負ったものを少しだけ軽くしてくれます。
持ち込まれる”悩み”がバラエティ豊かで、「へー!」と驚いたり、「うんうん」と感情移入したりできるのも楽しみの一つです。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
ドラァッグクイーンのシャールさんの料理が、また小さな魔法を起こします。
職場の人間関係にストレスを抱える派遣社員。
実家の旅館を継ぐことを迫られる漫画家志望の青年。
子育てノイローゼ寸前の専業主婦。
そして、シャールさんにも人生の荒波が再び襲う。
おすすめポイント
食べ物がメインの物語が好きな方、ハッピーエンドが好きな方におすすめです。
仕事や生活に少しだけ疲れている方におすすめです。
シリーズでものですが、第1作を読んでいなくても十分楽しめます。
各章の感想
第1話「蒸しケーキのトライフル」
職場のランチタイムがストレスな派遣社員・西村真奈が主人公です。
真奈の所属する部署では、派遣社員のリーダー的存在(ぶっちゃけボスお局)がおり、ランチはそのグループと共にとることが当然という雰囲気が存在します。
真奈はそのランチタイムの不毛な会話が正直苦痛なのですが、自分から離れることができません。
ところが、新しくやってきた派遣社員・晶子が、自分ができなかったことを、いとも簡単に成し遂げてしまい、真奈はショックを受けます。
登場するデザート「トライフル」には、「自分はつまらない人間だ」と卑下する彼女の気持ちに寄り添う意味を持っています。
その意味するところは、是非実際に読んでみてほしいです。
第2話「梅雨の晴れ間の竜田揚げ」
漫画家志望の青年・藤森裕紀が主人公です。
家族経営の老舗旅館の次男坊である彼は、急逝した兄の代わりに実家を継ぐことを求められ、夢と家族との間で苦しみます。
なまじ血が繋がっていると話がややこしくなるよね~、という感じのお話です。
でも、ちょっと母親が身勝手過ぎるような気が……。
私は甘やかされて育ったのでよく分からないのですが、世の親ってみんなこんな感じなの?
あと、タイトルの「竜田揚げ」に、シャールさんは動物性のものを余り取らないはずでは、と首を傾げたのですが、読んでみて納得しました。な~る。
第3話「秋の夜長のトルコライス」
「私はあの子の母親です。私には、あの子のすべてを知る権利があります」
一人息子・圭の養育にノイローゼ気味の母親・伊吹未央が吐いた言葉です。反吐が出ますね。
トルコライスとは、長崎県のご当地グルメで、豚カツ、ピラフ、スパゲティが一つの皿に乗っているザ・B級グルメだそうです。
シャールさんのつくった「即席トルコライス」はピラフ、ナポリタン、揚げたてのトンカツの三種類。
マカン・マランでは超珍しい、炭水化物×炭水化物×揚げ物! ひえ~!
しかし、一人息子のためにと身体に悪い食べ物を過剰に避けてきた未央にこの料理はショック療法のように効きます。
しかし、何故人は自分が親にされて嫌だったことを、自分が親になるとしてしまうんでしょう。不思議だー。
第4話「冬至の七種うどん」
一応、中学校の教師の柳田が娘の進路に悩む話が主軸ですが、今回も本書を締めくくる最後はシャールさん自身の人生が絡んできます。
まあ、頭の固い柳田も不測の事態にはリーダーシップを取れる意外と頼れる中年オヤジであることが分かったりします。
自分も高校生時代、両親とめちゃくちゃ進路でもめたなことを思い出しました。
しかし、つくづくシャールさんは、人の悩みに寄り添う暇もないくらい自分も人生の荒波に揉まれている方ですよね。
まあ、だからこそ誰にでもおおらかでいられるのでしょうが。
俺たちは孤独だけれど、ひとりじゃない。
結局人間は孤独。食べ物でそれは変えられない。
本書は、なんでも食べ物で解決できる、という安直なストーリーを取らないところが魅力でしょう。
でも、人から人へ受け渡される”何か”は存在する。
その受け渡した”何か”の分だけシャールさんはおおらかで温かい。
三作目も読むのが楽しみです。
今回ご紹介した本はこちら
シリーズの既刊・続刊はこちら
第1作目
第3作目
第4作目