『異類婚姻譚』本谷有希子 | 【感想・ネタバレなし】夫婦という名のぬらぬらした生き物が日常の浅瀬をうごめく
「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた」専業主婦の日々を軽妙なタッチで描いた話です。
結婚してまだ日が浅い身からすると、「夫婦」という名のもとにぐちゃぐちゃと混じり合っていく二人の描写にゾッとしてしまいました。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
専業主婦4年目の私は、ある日夫と自分の顔がそっくりになっていることに気付く。
夫は「俺は家では何も考えたくない男だ」と宣言し、バラエティ番組を一日3時間以上鑑賞し、不毛なゲームに熱中し、揚げ物に執着していく。
そして、いつの間にか、お互いの輪郭が溶け合い役割が不明確になっていく。
おすすめポイント
ちょっと変わった小説を読みたい方におすすめです。
結婚に夢を持っている方に、是非、悪意を持っておすすめしたいです。
結婚という不可解な活動
本書の主人公の「私」は専業主婦歴4年。
私も結婚してまだ日が浅いので、つい感情移入して読んでしまったのですが、この「私」の「旦那」の描写は、なんだか両生類のように不確かで、ふにゃふにゃで、こんな奴と結婚するの絶対やだわ~、と思ってしまいました。
「俺は家では何も考えたくない男だ」と宣言して家でダラダラするまでは許せるんですが、妻の弟に家の雑事を押し付けて平然としていたり、道で痰を吐いてトラブルになって妻に「何とかしてよ」と丸投げしたり、しまいには、仕事にも行かず延々とゲームをしたりしはじめます。
なんだ、こいつ。
そして、しまいには、家事に手を出し始め、ここに至って、「私」と「旦那」の役割は逆転し溶け合い、どちらがどちらか分からないまでになっていきます。
でも、「私」も、怠惰で勝手な夫を、なんだかな~と思いながらも受容している風で、実は自分も安楽な専業主婦の座に後ろめたさを感じつつも居座り続けるという「旦那」によく似た行動を取っているので、まさに「似た者夫婦」なのでしょう。
この、「もう何も考えたくない」、果ては「もう無理して人の形をとっていたくない」という願望は自分にも根強くあるので、突然痛いところを刺激されたような不快感を覚えました。
是非、結婚願望の強い頭がファンタジックな方に読んでほしいです(自分だけイヤな思いをしていたくないので)。
日常に潜む異世界
ここからの展開がファンタジックで、楽なほう楽なほうに逃げる余り、専業主婦の「私」と同化しようとし、ついには人の形まで捨てようとする「旦那」に「私」は叫びます。
ー私になるんじゃなくて、あなたはもっと、いいものになりなさいっ。
本書を読んだ後「夫婦」って何だろう、と思い返すと、その言葉のあまりのあやふやさにゾッとします。
夫・妻という”日常”を当たり前のように受け入れてきましたが、それを支える柱は案外ふにゃふにゃで、私も、そのうち夫と同化していくのだろうか、と思うと、うーん、私も夫になるようりは、もっといいものになりたい、と思ってしまいました。