書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『狩人の悪夢』有栖川有栖 | 【感想・ネタバレなし】狩人とは一体誰だったのか。シリーズの愛読者には嬉しいサプライズが最後に待つ。

今回ご紹介するのは、 有栖川有栖狩人の悪夢』です。

2017年に刊行された「作家アリスシリーズ」の長編です。

本シリーズは御手洗潔とは異なり、探偵の火村と有栖は年を取らないシステムなので、シリーズ初期では、携帯もなく、ワープロ(!)やフロッピーディスク(!)で仕事をしていた有栖も、2017年にはスマホを持ち、パソコンで仕事をしています。

このシステムは、登場人物の設定に色々障害はあるものの、その時々の時代が感じられて、結構好きです。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

人気ホラー作家・白布施と対談を行った推理小説家・有栖川有栖は、白布施の自宅にあるという「必ず悪夢を見る部屋」に興味を持つ。
招待を受けた有栖川と白布施の担当編集・江沢は京都・亀岡にある白布施の自宅「夢守荘」を訪れる。
しかし、その翌日、白布施の亡きアシスタントが使用していた隣家「獏ハウス」で右手首が切断された女性の他殺体が発見される。
有栖川は友人で犯罪学者の火村英生に助けを求めるが……。

おすすめポイント 

シリーズの愛読者にとっては、嬉しいサプライズが最後に用意されています。

普段は温厚な有栖が犯人に対して感情的になる珍しい作品です。

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

34歳の名探偵と助手へ

「作家アリスシリーズ」にはじめて出会ったとき、私は高校生だったので、火村と有栖が随分”おじさん”に見えていたものでした。

こんなおっさん同士でもくだらん会話するんやな~、というのが初読時の感想でした。

しかし、じわじわ年が近づき、もう彼らを”おっさん”とは呼べない年齢に自分がなってしまったことに愕然とします。

というか、彼らが”おっさん”だとすると、自分が何と呼ばれるか怖くてたまりません!

そして、高校生のときから少しも変わっていない自分にも愕然とします。

これが、サザエさんシステムの魔!

そして、この愛すべき”おっさん”二人を書き続けてくれた著者には、初読時の失礼な感想を詫びたいです。

30代過ぎても友人同士の会話は出会った当初から変わらないものですよね! すみません!

狩人とは誰か

本書のタイトルに掲げられた「狩人」、シリーズの愛読者であれば、即座に火村を連想するでしょう。

犯罪者を冷徹に追いつめ、狩る探偵。

俺が撃つのは人間だけだ。

という、かっこいい(?)セリフを放ったりもします。

しかも、火村は謎めいたトラウマを持ち、頻繁に「悪夢」にうなされている人物でもあります。

しかし、あにはからんや、犯人を真に追い詰めるのは普段は助手に徹している有栖のほうです。

あまり、書くとネタバレになってしまうのですが、今回犯人にとどめを刺したのは火村ではなく有栖のほうでした。

解決後、火村が言うには

「お前の矢には毒が塗ってあった」

確かに、火村の提示した推理だけでは、「証拠がない」と逃げられても仕方なかったかな、という展開でした。

とはいっても、人の好い有栖らしく、火村であったら絶対想像しないような同情的な推論を犯人に投げかけます。

きっと冷徹に淡々と追い詰められるよりそっちのほうがキツいこともあるのでしょう。

事件解決後、火村の「悪夢」について二人が語る場面があるのですが、今後火村が「悪夢」に飲まれそうになっても、今回のように有栖が代わりに出てきて、それを引き受けてくれるのでは、と希望が持てるラストでした。

本書でクスりと笑ってしまった一幕がこちら

「異性の手を握る意味について思いがけず見解が一致した記念に訊くけど、火村先生が最後に大切な手をぎゅっと握ったのはいつや?」

「この前の日曜日さ」

面白くもなさそうに答える。

「お前を侮ってた。……マジか」

この男が抱える秘密は計りがたい。

「ああ、婆ちゃんが台所で転びかけてな」

今回ご紹介した本はこちら

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