『海のふた』よしもとばなな | 【感想・ネタバレなし】全編を貫く夏の匂いとまばゆい光に目が眩む、夏が恋しくなる小説。
ふるさとの西伊豆にささやかなかき氷屋を開く「私」と心に傷を負った少女・はじめちゃんとの夏の日々を描いた爽やかな一夏の小説です。
私は、超インドア派にも関わらず、夏が一番好き!という珍しい人間なのですが、本書は、これから夏を迎える今読むのにピッタリでした!
名嘉睦稔の挿絵も生命力に満ち生々しく、海と夏の匂いを運んでくれます。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
おすすめポイント
夏に読むのにピッタリの小説です。
主人公の「私」のキャラクターが、力強く荒々しくてそこが魅力的です。
「まりちゃん」のようになりたい
本書で一番好きなシーンはこちら。
はじめちゃんがやってきた晩、公共浴場での場面で、
「まりちゃん」
はじめちゃんは、そのときはじめて私の名を呼んだ。恥じらいもなく、まるで昔から知っている人のような呼び方で。それは、多分はじめちゃんが心を開くことに決めた、記念すべき瞬間だった。
「なあに?」
「まりちゃん、はだかなのにがっと足を開いて、真っ黒で、漁師みたいに岩に座っていて、かっこいいです。」
「がさつだからね~。」
序盤のこの場面で、この「私」こと「まりちゃん」にスコーンと恋に落ちてしまいました。
生まれた西伊豆の街が好きで好きで、だから今のさびれてしまった故郷の姿が悲しくて、自分にできることやりたいことを考え抜いた結果、大好きなかき氷屋をやることに決めて、そのために真っ黒になってガンガン働いて……。
行動力があって、考え方がサッパリしていて、私がこうなりたい!と思う女性の姿そのものです。
現実の私は、臆病で神経質で(なのに無神経で)、ひょろひょろでなまっちろい人間なので、余計に物狂おしいくらい「まりちゃん」に憧れます。
夏の匂い
そんな海のような力強い魅力に溢れた「私」のもとにやってきたのが、心に傷を負った少女・はじめちゃんです。
全身に火傷の傷跡を背負い、可愛がってくれたおばあちゃんを亡くしたばかりのはじめちゃんは、背骨が浮き出るほど瘦せ細った痛々しい少女です。
「私」は、はじめちゃんの負った傷や、ちょっとお嬢様気質でわざままな部分を、少しだけ面倒くさいな~、と思いながらも、おおらかに受け入れていきます。
「この忙しい現代社会において、よく知りもしない人のために、自分の時間を全部あけておくなんて、恐ろしいことだ」という私の気持ちが間違っていて狭量でちっぽけなものだという気が、聞いているうちにどんどんしてきたのだ。
本当に、こういう考え方が好き。
一緒にかき氷屋をやったり、街を見てまわったり、夜の海に入って見たり、まるで小学生の夏休みのような生活。
全編に漂う夏の匂いに、ちょっと死にたいくらい夏が恋しくなります。
今の季節にぜひ、読んでほしい小説です。