書にいたる病

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『草原のコック・オー・ヴァン 高原カフェ日誌II 』柴田よしき | 【感想・ネタバレなし】高原のカフェの秋と冬。一筋縄ではいかない人生にもやがて春が来る

今日読んだのは、柴田よしき『草原のコック・オー・ヴァン 高原カフェ日誌II』です。

こちらは、高原のカフェを舞台としたシリーズものの2作目にあたります。

1作目の感想はこちら

rukoo.hatenablog.com

結婚に失敗し傷を負った主人公・奈穂は、東京から脱出し、リゾートブーム過ぎ去りし過疎の気配漂う百合が原高原に小さなカフェ「Son de vent」をオープンします。

自分のペースで少しずつ傷を癒していく奈穂と、彼女を取り巻く人々、美味しそうな料理と、ちょっぴりほろ苦い人生模様が交錯する、美味しい物語です。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

結婚生活で傷を負った奈穂は、東京での生活を捨て、百合が原高原にカフェ「Son de vent」をオープンさせ2度目の冬を迎えようとしていた。
村役場の職員・村岡涼介との恋の行方、友人となったひよこ牧場の南に支えられ取り組む大仕事、そして、村への新たな移住者が巻き起こす波乱の予感。
覚悟が試される冬を超え、春に至るまでの軌跡を描くシリーズ2作目。

おすすめポイント 

・美味しそうな食べ物が出てくる小説が好きな方におすすめです。

・1作目の雰囲気を踏襲しつつ、少し踏み込んだ内容になっています。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

田舎の煩わしさと優しさ

前作が、傷を負った主人公が居場所を求める物語なら、今作は、その場所に居続ける覚悟を問われる物語、といえるかもしれません。

本書で波乱を巻き起こす新たな登場人物・森野大地は、人気ロックバンドの元ギタリストで、百合が原高原にはワイナリーを開業する目的で移住してきます。

しかし、元芸能人という経歴や、過去のスキャンダルから、村人からは一定の距離を置いて生活しており、地元民の森野を見る視線も冷ややかです。

同じ東京からの移住者としてほっておけない奈穂は、何かと森野を気にかけ地元民との架け橋となれるよう気を遣います。

このあたりの、都会と田舎の人間関係の違いは、ため息をつきたくなるほどリアルだな、と思います(現実はもっともっと陰湿ですが)。

「(略)何かにつけて細かく詮索されて、毎日噂話ばかりで、憶測だけで平然と中傷する。それで村の人たちは良心が痛んだりしないのよ。なぜなら、それが日常だから。(略)」

それでも、と奈穂は言います。

「それは、村の人たちが人間に関心を持っていることのあらわれなの。関心があるから、興味があるから詮索する。(略)」

田舎の暮らし、特に舞台となる百合が原高原のような豪雪地域では、都会のような自分と仕事だけの世界で完結し、隣人との関りは最低限という生活スタイルは困難なのです。

どんなに鬱陶しくても、煩わしくても、助け合わなくては生活していけない。

しかし裏を返せば、弱ったり助けが要るときには、誰かが手を差し伸べてくれる社会である、ということです。

「俺はまだ、甘えていたんですね」

森野がやっと、そう言った。

「あなたの言う通りだ。いずれ俺一人ではどうにもならない時が来る。ワインだけ造っていればいい、村の人たちとは最低限のかかわりにしたいなんて、戯言でした。(略)」

そこで生きる覚悟

そして、奈穂自身も、自らの立ち位置への覚悟を試されるときがやって来ます。

ー預金残高がここまで減ったら潔く撤退

カフェをオープンするときに決めたことデッドライン。

これは意地悪な見方をすれば、いつでも東京に戻ることができる、というラインでもあるわけです。

しかし、村役場の職員・村岡涼介との結婚話や、森野との関係のなかで、奈穂は徐々に、ここ(百合が原高原)で何をしても生きていく覚悟、を固めていきます。

この覚悟こそ、ひよこ牧場の南にあって、奈穂に無かったものと、言えるかもしれません。

しかし、引っ越し続きで地元と呼べる場所の無い私としては、百合が原高原のような人間関係の濃い場所で暮せる気が全くしません。

こういう場所はどんどん希少になっていくのかもしれませんね。

今回ご紹介した本はこちら

1作目はこちら

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