『エチュード春一番 第二曲 三日月のボレロ』荻原規子 | 【感想・ネタバレなし】思いやりと知性の在り方に思いをはせる夏。シリーズ第2巻。
今日読んだのは、荻原規子『エチュード春一番 第二曲 三日月のボレロ』です。
八百万の神の一柱を名乗る白黒のパピヨン・”モノクロ”と同居する女子大生・美綾の生活を描いたファンタジーシリーズの第2巻です。
1巻の感想はこちら↓
1巻では不安と期待に揺れる大学生活の春が描かれましたが、本書では季節は夏に移り、美綾は夏休み、祖母の家でモヤモヤしたままの自身の進路についてあれこれ考えます。
また、従弟の家庭教師(美女!)や美綾のストーカー?などまた変な人々に翻弄され、目が離せない一冊でした。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
弓月に招かれた夜の神社で、美綾は光る蛇神の姿を目撃する。
弓月は美綾を”能力者”と思い込み、同じく能力者だという飛葉周と引き合わせるが、その後、飛葉は美綾に付きまとうようになり……。
おすすめポイント
爽やかな読後感の青春ファンタジーをお求めの方におすすめです。
日本神話に興味のある方におすすめです。
動物に対する態度と思いやりと知性について
1巻に引き続き、モノクロの人間を観察する独特の視点が興味深いです。
特に、本書ではモノクロという”犬”に対してどういった対応をするのか、キャラクターごとに書き分けられているのが印象的でした。
例えば、主人公・美綾の祖母・春海は、少し距離をおいた客観的な態度をとろうとします。
「あんまりかわいらしいから、見てあきれるよ。徹底して人間にかわいがられる容姿に改良された犬だね」
しかし、しつけや毛の掃除についてうるさく言いながら、ちょこちょこ様子を見ていたりと、適度に距離をあけつつ生き物として気にかける様子が伺えます。
モノクロも春海の態度を「結構、親切」と評しています。
美綾の従妹・佳奈はとにかく猫かわいがりするタイプです。
「かわいいかわいい超かわいい。佳奈もこんなのが欲しい」
初対面で撫で繰りまわしてしまい当の動物には嫌われがちなのがちょっとかわいそうですね。
「こんなのが欲しい」とペットをあくまでモノとして捉えているあたりどうかとも思いますが、愛玩犬を可愛がる態度としては間違っていないのかもしれません。
そして、モノクロに、「おぬしの友人は、たいそう頭がいいな」と言わしめた美綾の友人・愛里は白眉といっていいかもしれません。
匂いをかがせ、敵じゃないよ、と話しかけはするけれど、佳奈のように無闇に構いつけたりもしません。
「この子も美綾の家の住人でしょ。後から押しかけたほうが相手を立てないと」
こういった行動が自然にとれる人間は意外と少ないんじゃないかな、と思います。
「いや、自分とまったく異なる相手の立場でものを考えるのは、よほど高い知能を持たないとできないことだ。それを行動の基準にして、的外れでない行動に収めるのはさらに至難の業だ。愛里というおなごややすやすとそうしている」
(略)
「人間でも発達していない個体が多いに違いない」
耳の痛い言葉です。
美綾は愛里のそういった性質は、思いやり、優しさと捉えます。。
私自身の動物に対する態度としては、祖母・春海の態度が一番近いかな、と思いました。
どうしても、ペットを”人間に生殺与奪を握られた生き物”として捉えてしまい、ちょっと距離をあけて接してしまいます。
「ペットは家族」と言われると、それくらい大切ってことだよね、と納得しつつもどこかで、「金で買ってきたり、持ち主の好き勝手にできる生き物が家族とは何ぞや?」と腹の奥底で考えていたりします。ひねくれてるんですね。
目の離せない登場人物
物語としては、未だ自身の適正や能力を見定められない美綾のモヤモヤした日々に、モノクロの気配を纏った美綾を”能力者”と認識した、地元の氷川神社の娘・弓月と弓月の知り合いで”視える”と自称する謎の男・飛葉という怪しい男女が介入してくる、ちょっぴりスリリングな巻となります。
特に、飛葉は美綾の所属するサークルの小旅行に突如現れたり、自宅近くの公園に出没したり、ほぼストーカーです。
しかも、終盤では読者も驚く暴挙に出たり、ラストでは美綾に急接近したり、今後も目の離せない人物になりそうです。
次刊は、平将門の時代にタイムスリップする、という一層、現実離れしたストーリーのなるようで、今から楽しみです。
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