『たまごのはなし』しおたにまみこ | 【感想・ネタバレなし】シュール?哲学?じわじわ刺さるちょっとひねくれた(?)たまごのはなし
今日読んだのは、しおたにまみこ作の絵本『たまごのはなし』です。
緻密な鉛筆の線で描かれた独特の絵と、そのシュールで哲学的な内容にどんどん引き込まれます。
一見ひねくれてみえる”たまご”の行動が、よくよく考えてみると、本質をズバリと突いているようにも思えてきて、クスリと笑った後で、うーんと頭を捻らされる、いろんな意味でひねくれた大人向け絵本です。
ていうか、たまごがやたら偉そうで笑える。たまごのくせに。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
はじめて動き、はじめて話したときのこと。
マシュマロと一緒にキッチンの外に探検に行ったこと。
ナッツたちのあらそいを解決したこと。
このたまごはいいたまご? 困ったたまご?
独特の雰囲気に引き込まれる大人も楽しめる絵本
おすすめポイント
・深く考えさせられる大人向けの絵本が好きな方におすすめです。
シニカルなユーモアとひねくれた本質
語り手のたまごは、ずっとキッチンに転がっていたのですが、ある日、自分が動けることに気付きます。
動くことが素敵なことだと思ったたまごは、他のたまごも起こしてみようと思うのですが……、というのが導入です。
動くこと、話すことをはじめたたまごは、起こした”マシュマロ”と共にキッチンの外に冒険に出かけます。
そこで、色んなモノにあれやこれやといちゃもんを付けられます。
例えば、”うえきばち”には
「たべものが うごきまわるな。みっともない。はやく だいどころへ かえれ!」
”クッション”には、
「あらそう。でも だいじょうぶ? よごれてしまったらとりかえしがつかないわよ」
”とけい”には
「きみたちが ほんとうに うらやましいよ。まいにち なにもしなくて いいんだろ? かってきままに ぶらぶらしてさ」
「まいにち なにかは しているよ」
「ああ、しってる。でも それって やらなくてもいいような ことだろう? やってもいいし やらなくてもこまらない。ぼくのしごとは そうはいかない」
うわ~、まじでこういうこと言う人、実際にいるよね~、と苦々しい気分になります。
このいちゃもんに対し、たまごは何ともひねくれて、しかし実に本質的な切り返しをします。
この返し方が、シニカルなユーモアにあふれていて、ついクスリと笑ってしまいます。
特に、”クッション”への返し方が秀逸で、ゲラゲラ笑ってしまいました。
哲学的深み
しかし、ひとしきり笑ってしまった後に、ふと、我が身を振り返ってしまう深みがこのお話にはあります。
ナッツたちが、仲間同士でお互いの些細な違いをあげつらって喧嘩するのに対して、たまごが解決(?)方法を提示する話があるのですが、たまごの考えた解決方法は、あまりに乱暴かつ身も蓋もないもので、子どもには面白いかもしれませんが、大人には身につまされる話だな、と思いました。
子どもに話しているようで、思わずぎくりとさせられる油断ならない絵本です。
とにもかくにも、大人も子どもも、一冊、本棚に入れておきたい絵本でした。