書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『偽恋愛小説家』森晶麿 |【感想・ネタバレなし】あの恋愛童話に隠された秘密とは? シニカルな恋愛(?)小説家と新米編集者が挑む恋にまつわる難事件

今日読んだのは、森晶麿『偽恋愛小説家』です。

華々しくデビューした恋愛小説家にニセモノ疑惑勃発!?

新米編集者の月子は疑惑の真偽を確かめようと奔走。

しかも、身の回りで次々、事件が起こるし、小説家・夢野の思わせぶりな態度も気になるし……。

という、ドラマにすると映えそうだな~、という恋愛ミステリ小説です。

それぞれの事件は、シンデレラ眠りの森の美女などの恋愛童話がモチーフとして登場し、恋愛(?)小説家の夢野が童話に隠された秘密と事件の謎を同時に解き明かしていきます。

あの童話に、こんな見方が!?と驚かせてくれるのが魅力です。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

繊細な心理描写の恋愛小説『彼女』で対象を受賞し、華々しくデビューした気鋭の恋愛小説家・夢宮宇多。
新米編集者の月子は、夢宮に第2作を書かせようと躍起になっていた。
そんな夢宮と月子の周囲では次々と事件が起きる。
シンデレラ、眠りの森の美女、人魚姫、美女と野獣、それぞれの童話に隠された秘密と、事件の真相とは?
しかも、夢宮にニセモノ疑惑が勃発!
月子は、真相を求めて東奔西走する。

おすすめポイント 

・誰もが知ってるあの童話の別解釈に興味のある方におすすめです。

・ちょっとひねったライトな恋愛小説を読みたい方におすすめです。

・編集者というお仕事小説としてもおすすめです。

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

誰もが知っているあの童話に隠された秘密

本書の一番の見どころは、誰もが知っている童話に別の光が当てられる点でしょう。

端正な容姿をもちながらシニカルな恋愛(?)小説家・夢野は、月子の憧れるお伽噺にばっさばっさとメスを入れていきます。

シンデレラは王家への痛烈な風刺?

眠りの森の美女に隠されたおぞましい真実とは?

人魚姫は「最高にロックな小説」

あくまで童話の一解釈なのですが、慣れ親しんだ物語に新しい光が当たるのが面白く、ふんふんと呼んでしまいました。

全体としてはライトな読み心地ながら、芸術学に素養のある著者らしい衒学的な一面があり知識欲も満たされます。

そして、夢野の語る童話の”真相”に、事件の”謎”が重なり、思わぬ真実が晒されます。

第一話「シンデレラの残り香」

月子に説得されてインタビュアーとしてテレビ出演することになった夢宮は、石油王・一色慶介と笙子夫妻に出会います。夫妻の馴れ初めは現代のシンデレラストーリーだといいますが、夢宮はこの話に不快感を示します。

「シンデレラ」に隠された秘密と呪いとは。

そして、夫妻の出会いの謎と、その行きつく結末とは。

第二話「眠り姫の目覚め」

「浜本恋愛文学新人賞」の授賞式に出席した月子は、そこで青春時代の憧れの俳優・沖笛謙に出会い舞いあがってしまいます。沖笛は受賞者の仮谷紡花との婚約関係を授賞式で発表するはずでしたが、紡花は授賞式には現れず、彼女をホテル内で目撃していた月子は不審に思います。

今作中最もグロテスクな話で、女というものの恐ろしさを(童話でも現実でも)つくづく感じさせる話でした。

真相を見せた!、と見せかけて、さらにそこから、ぐるんっと回転させる魅せ方が見事

第三話「人魚姫の泡沫」

プロットをいつまでも出さない夢宮を追いかけ、月子は伊豆高原を訪れます。

そこは、夢宮の第1作『彼女』の主人公のモデル・涙子が住む土地でもありました。

月子はそこで、青春時代に名前の無いラブレターを渡した相手と再会します。

そっちかーい!、とついツッコんでしまいましたが、知らぬ間に窮地を助けてくれている、というシチュエーションはぐっときます!

第四話「美女は野獣の名を呼ばない」

美女と野獣」のラストで、野獣が王子に戻るシーンでモヤっとするのはなぜか、というネタです。

かくいう私も、ベルは野獣のままの姿で愛したはずなのに、なぜ王子に戻る必要が?、と長らくもやもやしていたので、この話でもやもやが言語化されスッキリしました。

また、”夢野のニセモノ疑惑”という大きな謎がようやく明らかになります。

夢野が書いた大賞受賞作『彼女』は、主人公のモデルである涙子の夫・潔が書いたものなのではないか、というものです。

潔は数年前に不審死を遂げているうえ、物語の中では、ライバルにより殺されているのです。

虚構と現実が交錯し、はたして、夢野はニセモノの小説家なのか、殺人犯なのか、物語はクライマックスを迎えます。

自分は本物か?

本書の大きなテーマに、”ニセモノとは何か”、があります。

月子は、夢野がニセモノなのでは、と悩みつつ、自分自身も、”本物”の編集者と言えるのか、苦悶し、夢野への想いが”本物”なのかについてもはっきり答えを出せません。

果たして、夢野の書いた物語は、”ニセモノ”なのか。

夢野は、偽恋愛小説家なのか。

この物語自体、”本物”のミステリーなのか、恋愛小説なのか。

頭をごちゃごちゃにしながら、楽しんでほしい一冊でした。

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