書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『百番目の男』ジャック・カーリイ | 【感想・ネタバレなし】カーソン・ライダーシリーズ第1作。暗闇で手探りする”百番目の男”が首なし死体の謎に挑む

今日読んだのは、ジャック・カーリイ『百番目の男』です。

若き刑事カーソン・ライダーの活躍を描いたクライム・サスペンスです。

恋愛あり、アクションあり、暗い過去あり、の息も尽かせぬスピード感に、巧みな伏線思いもよらない(でもフェアな)真犯人と、サービス精神旺盛で密度の高いエンタメ小説でした。

読んでいると映像が脳内に自然と立ち上がってきて、まるで良く練られた海外ドラマを見ているかのようにスイスイ読めてしまいました。

舞台であるメキシコ湾に面した港湾都市アラバマ州モビールの美しい風景描写も魅力の一つです。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

アラバマ州モビール市内の公園で首を斬られた死体が発見される。
同性愛者の怨恨と見る上司に、死体が”きれいすぎる”と怨恨説に疑問を持つ”僕”は、相棒のハリーと共に独自に捜査をはじめる。
しかし、第2の首なし死体が発見され、”僕”は自身の暗い秘密に向き合うことを余儀なくされる。
モビール市警《精神病理・社会病理捜査班》、通称PSITに配属された僕ことカーソン・ライダー刑事の活躍を描くクライム・サスペンス

おすすめポイント 

・翻訳ものが苦手でもスイスイ読めてしまう魅力があります。

・”兄弟、家族の確執”みたいな話にピンとくる方におすすめです。

・海外の刑事ドラマが好きな方におすすめです。

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

舞台・アラバマ州モビール

”僕”ことカーソン・ライダーの住居は、アラバマ州モビールドーフィン島母親の遺産で購入した浜辺の一軒家、とされています。

夜明けにひと泳ぎしにいったり、浜辺をジョギングしたり、と、いい生活ですね~、と思わず嘆息。

仕事前に、海で泳げる生活、いいな~。

GoogleMapでちょちょいっと調べてみると、一応、道路で大陸と繋がっているようでした。

Wikiでちょちょいっと見た情報によると、日本の種子島とほぼ同程度の緯度らしいので結構温かいのでは、と思われます。

また、港湾都市らしく、シュリンプ、クラブ、オイスターなどの海産物が名物で、また、映画『フォレスト・ガンプの舞台として有名な観光都市、らしいです。

開放的な南部の港町、って感じですね。

主人公、カーソン・ライダー

我らが主人公・ライダー刑事は、若く頭脳明晰で、明るくて、ちょっと熱い所もあって、でも、誰にも言えない秘密も抱えているチャーミングな人物です。

ちょっと設定盛りすぎじゃない?、と思ってしまいますが、相棒のベテラン刑事・ハリーの落ち着きと老練さが、良い感じにイヤミさを中和してくれています。

そのハリーが物語冒頭で、”僕”を評した言葉が、タイトルの「百番目の男」の男です。

「暗闇でなにか求めて手探りするか、それともあかりのなかで楽に見つけられると楽観するか。選ばせると、人は百人中、九十九人まではあかりを選ぶ」

ピーターソンがいかにも検察官らしく眉をあげてみせた。「じゃあ、百番目の男というのはどんなやつだね? つねに暗闇で手探りするのは」

ハリーはにやりとして、僕をほうを指さした。

あいつだ

タイトル回収が早すぎて思わず笑っちゃいました。

しかし、この後、何度も「暗がりを手探りする百番目の男」というこの言葉の意味に立ち返ることになります。

「暗がり」は、時に犯罪を、時に、”僕”自身の暗い過去家族の秘密、を暗示します。

”僕”と唯一の肉親であるとの闇の絆とも言うべき関係が、物語の根底を流れる暗い川となって、奥行きと彩りを与えてくれています。

過去とどう向き合うか

本書では、”過去”について、繰り返し言及されます。

イヤな奴だと思っていた同僚の本当の夢、アルコール依存症のガールフレンド、犯人が首を斬らなくてはいけなかった理由、”僕”が放火殺人解決を誇れないわけ。

本書に描かれるのは、過去の消えることのない痛みが、人を破滅的な行動に駆り立てるさまです。

そこから救われる人間、救われない人間が分けられてしまうのは、偶然としかいいようのないほんの少しのめぐり逢いの有無なのかもしれません。

誰かと出会っていれば、心救われる言葉をかけられていれば、衝動を建設的な行為へ昇華できる機会があれば……結果は変わっていたかもしない。

それが分かっているから、”僕”は、どれだけ迷惑をかけられてもアルコール依存症のガールフレンドに手を差し伸べるし、イヤな同僚の叶わなかった夢を悼むし、兄を心底から憎むことができないのでしょう。

失われたものと不幸ないきちがいへの悼み、そして、やり直しさえきけば、未来への道を拓いてくれたはずの過去への哀悼に。

物語のはじめて、”僕”に電話をかけてくる”過去”の声は、あらがいがたく暴力的で、"僕"はその声に縛られ支配されます。

しかし、物語の終わりの電話での声に”僕”は、「暗闇にひとりきりで怯える子どもの早く浅い息」を聞きます。

そのときそのとき、”僕”とあらがいがたかった”過去”との付き合い方があっさりと決まるのです。

そして僕は過去との電話を切った。とりあえず今日のところは。

今回ご紹介した本はこちら

続刊はこちら

第2作目『デス・コレクターズ

第3作目『毒蛇の園

第4作目『ブラッド・ブラザー

第5作目『イン・ザ・ブラッド

第6作目『髑髏の檻

第7作目『キリング・ゲーム