『ブラッド・ブラザー』ジャック・カーリイ | 【感想・ネタバレなし】カーソン・ライダーシリーズ第4作。あふれる魅力と高い知能を持つ殺人鬼、それが僕の兄
今日読んだのは、ジャック・カーリイ『ブラッド・ブラザー』です。
シリアルキラーを兄に持つ若き刑事・カーソン・ライダーの活躍を描いたシリーズ4作目です。
前作『毒蛇の園』ではなりを潜めていた兄・ジェレミーが大活躍します。
また、本拠地モビール市を離れ、大都会ニューヨークに舞台がうつります。
緻密な伏線と南部の美しい風景描写が特徴だった1~3作目と対照的に、ダイナミックな展開と登場人物の内面に迫るストーリーで、海外ドラマのシーズン最終回っぽいドラマティックな作品でした。
これ1作というより、シリーズのファンに嬉しい一冊だと思います。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
異常犯罪専門の刑事・”僕”ことカーソン・ライダーはニューヨークに潜伏したジェレミーを追うことになる。
きわめて狡猾、知的、魅力的な殺人犯・ジェレミー、そして”僕”の兄、彼の真の目的とは。
おすすめポイント
・海外刑事ドラマが好きな方におすすめです。
・”兄弟、家族の確執”みたいな話にピンとくる方におすすめです。
・知的で魅力的な殺人犯が活躍するお話が読みたい方におすすめです。
またしてもガールフレンドがチェンジ!
第1作『百番目の男』、アル中の病理学者・アヴァ。
第2作『デス・コレクターズ』、新進気鋭の女性レポーターのディーディー。
第3作『毒蛇の園』のラストでは10歳年上の病理学者・クレアとちょっといい雰囲気に……。
そして今作では、ニューヨーク市警の警部・アリスと良い感じになります。
もうこれは、一作品一人彼女ができると思っていいかもしれません。
え? これがアメリカのスタンダードなのかしら?
殺人鬼で僕の兄・ジェレミー
本シリーズの魅力は何といっても主人公の兄にして、高度な知能を持つ殺人鬼・ジェレミーです。
アラバマ逸脱行動強制施設に収容され生きている限りシャバには出てこれないはずの彼が、今作では何と脱走し、ニューヨークに潜伏してしまいます。
さらに、施設所長のヴァンジーがむごたらしい死体となって発見され、ヴァンジーが生前遺したメッセージによって、”僕”はニューヨークに呼ばれます。
「このビデオが発見されたら、モビール市警のカーソン・ライダーに連絡をお願いします」
ヴァンジーはジェレミーによって殺害されたと考えた”僕”は、ニューヨーク市警の面々と捜査を開始するのですが、ジェレミーはその高度な知能で巧みに捜査の手を逃れます。
ジェレミーの行動を追う”僕”の描写が、いとわしく思ってても長く一緒にいるからどうしても思考が読めてしまう、という兄弟っぽさがあってよかったです。
ジェンダーと女性嫌悪(ミソジニー)
カーソン・ライダーシリーズは、一作一作に明らかなテーマとメッセージ性があるのが特徴的ですが(『百番目の男』は過去との対決、『デス・コレクターズ』は人間の底知れない欲望)本書の隠れたテーマは「ジェンダーと
個人的な経験を、ジェンダーの問題にすり替えて自己欺瞞に走る人間の愚かさと醜さが紙いっぱいに表現されます。
大統領候補に脅迫文を送ったある男は、自分の「男らしさ」を「ずる賢いフェミニストたち」が脅かしている、と主張します。
男は、女性によって権利を侵害され、攻撃されている、というのです。
そういえば職場に、「そんなにセクハラ、セクハラ言われたら男は何もしゃべれません」と発言した人がいたのですが、研修の先生に「じゃあ、しゃべらなければいいんです」と瞬殺されてて笑いました。
こういった人々のルーツは、「たいていは本人の失敗を他人のせいにしているだけ」と本書は断じます。
おれを殴ってくれよと、こうした連中は言っているようだ。ひとたび殴られれば、その件をねちねちと言いつづけ、自分のあざを周囲が哀れんでくれることを望んで一生を過ごす。
自分に自信が無いばかりに、常に攻撃する存在を求め、それがために、自身が傷つけられることを望む、というねじれ切った自己欺瞞の塊です。
そして、こうした
本書の真相は、この「男らしさ」というマッチョな概念と
「男らしさ」なんて幻想からすべての人が逃れられることを祈ります。
今回ご紹介した本はこちら
既刊・続刊はこちら
第1作目『百番目の男』
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第2作目『『デス・コレクターズ』』
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第3作目『毒蛇の園』
第5作目『イン・ザ・ブラッド』
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第6作目『髑髏の檻』
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第7作目『キリング・ゲーム』
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