『俗・偽恋愛小説家』森晶麿 |【感想・ネタバレなし】恋愛童話に隠された秘密ふたたび。偽恋愛小説家・夢宮と担当編集・月子との関係にも変化が
今日読んだのは、森晶麿『俗・偽恋愛小説家』です。
底意地の悪いイケメン小説家・夢宮と新米編集者・月子のコンビが有名な恋愛童話になぞらえた事件を解決していく、というシリーズの第2作目になります。
ライトなストーリーと、キャラクターの魅力、モチーフのキャッチーさ、と三拍子揃っていて、ドラマ化とかしたら映えそうだな、と再び思いました。
あと恋愛要素もがっつりあるし(四拍子?)。
今作では、1作目ではもだもだしたまま終わった月子の恋に、新たな局面が見えて、ドキドキの展開でした。
友達の恋バナ聞いてみるみたいな若々しい気持ちにさせてくれました。
そして、相変わらず誰もが知ってるあの童話の新解釈も楽しめました。
グロテスクだったり、切なかったり、愛おしかったり、人前では言えない恋愛の密やかな苦楽を人は童話に込めてきたのかもしれません。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
「白雪姫」「ラプンツェル」「カエルの王子様」「くるみ割り人形」
童話に込められた時に甘く時に苦い恋愛の”真相”とは。
そして夢宮への想いを決めかねる月子に、幼馴染の”お兄ちゃん”との縁談が舞い込んで…?
おすすめポイント
・誰もが知ってるあの童話の別解釈に興味のある方におすすめです。
・ライトで恋愛要素のあるミステリーが読みたい方におすすめです。
・編集者というお仕事小説としてもおすすめです。
誰もが知っているあの童話に隠された秘密ふたたび
このシリーズは、誰もが知っている童話が、夢宮によって紐解かれていくさまが一番の見どころ、と言えます。
紐解かれた真相は、時に苦く、時に切ないものです。
決して人には明かせぬ想い、それを人は物語に託したのかもしれません。
第一話「白雪姫に捧ぐ果実」
夢宮へ淡い想いを抱く月子のもとに、幼馴染の”お兄ちゃん”・聡との縁談が舞い込みます。
一方、原稿の締め切りが迫るなかで、夢宮は月子に、豪華客船に乗りたい、とわがままを言い出します。
聡が主宰するクルーズ客船での読書会に参加した夢宮と月子の前で、参加者の一人で女優の神田川サラが心不全で急死、サラを白雪姫になぞらえた聡に、夢宮は「あれはかわいそうな話だ」と謎の言葉を発します。
聡の「月子」呼びにムッとする可愛い先生が見れます。
なぜ、白雪姫が小人のベットに寝れたのか、という問いから発展していく解釈が面白いです。ちゃんと根拠があるところもすごい。
第二話「ラプンツェルの涙」
月子は聡に誘われて、J-POP歌手・道田未知のコンサートに出かけます。
会場には未知の師匠で演歌歌手の桜鳥雪海もおり、彼女は密かに道田未知を殺そうと狙っているのでした。
ラプンツェルの魔女は、ラプンツェルを愛していたか、という一度は考えたことのある切ない問いがこの話のテーマとなります。
愛して愛して、その末に憎しみになる、愛の哀しさを目いっぱい詰め込んだ話でした。
ミステリとしての仕掛けも凝っていて面白かったです。
騙されました。
第三話「カエルの覚悟と純愛」
「カエルの王子様」というと、誰もが知ってる(?)になってしまいそうな気がします。
ストーリーがあやふやな人も多いのでは?、と思いますが、ちゃんと解説してくれているのが親切。
実は私も、ハインリヒが哀しみで胸が張り裂けないように鉄の帯を巻いた、というくだりでは、このハインリヒ、王子のこと好きすぎでは?、とちょっと思ってました。
この話で一応、聡と月子の関係に答えが出ます。
それにしても、月子ちゃんは少し優柔不断すぎでは?
第四話「くるみ割り人形と旅立つ」
クリスマスイブ、淡い期待を持つ月子に夢宮から連絡が!
「涙子……が」「攫われてしまったんだ」
仰天した月子は、夢宮のもとに駆け付けますが、そこは「くるみ割り人形」の公演会場で……!?
「くるみ割り人形」は劇だったり、バレエだったり、いろいろなストーリーがあるので、いざ知ってるかと言われるとモゴモゴしてしまうかも……です。
夢宮は「くるみ割り人形」に込められた”死と少女との宿命的な出会い”を月子に語ります
夢宮の紐解く真相は歪なものが多いのですが、今回はかなりロマンチックなものでした。
ミステリとしては、真相はまあ大体予想がつくけど、「くるみ割り人形」の解釈談が面白くて最後まで引っ張られてしまう、という感じです。
”死と少女”、魅力的なモチーフを恋愛描写として、ちゃんと生かしていると思います。
夢宮と月子の関係にも一定の答えが出たようなので、これで終わりかな、と思っていたのですが、続編があるようです。
こちらも楽しみです。
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