書にいたる病

活字中毒者の読書記録

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『ミカンの味』チョ・ナムジュ |【感想・ネタバレなし】「82年生まれ、キム・ジヨン」の著者の新作! 枝から切り取られた後も、自ら熟す青い果実たちの日々

今日読んだのは、チョ・ナムジュ『ミカンの味』です。 食や文化などあらゆる流行が韓国から流れて生きているように感じますが、文学でもそ傾向が近年強くなったと感じます。 著者のチョ・ナムジュは、『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ベストセラーとなって…

『この世にたやすい仕事はない』津村記久子 | 【感想・ネタバレなし】仕事とは一つの宇宙、ちょっと不思議でニッチなお仕事小説

今日読んだのは、津村記久子『この世にたやすい仕事はない』です 前職を燃え尽き症候群で辞めた36歳の女性が5つの短期のお仕事をする、という小説なのですが、どれも超マニアックな仕事ばかりで、世の中には変わった仕事が沢山あるものだと感心してしまいま…

『私の夫は冷凍庫に眠っている』八月美咲 | 【感想・ネタバレなし】殺したはずの夫が帰ってきた、緊迫感に耐え切れないサスペンス

今日読んだのは、八月美咲『私の夫は冷凍庫に眠っている』です。 人気小説サイト「エブリスタ」発のラブ・サスペンスで、ドラマ化、漫画化もしている注目作です。 www.tv-tokyo.co.jp 殺した夫を冷凍庫に隠したはずなのに、その夫が帰ってきた!という衝撃の…

『サード・キッチン』白尾悠 | 【感想・ネタバレなし】理解が欲しいわけじゃない、ただ受け入れてほしい。自分の、あなたのそのままの姿を。

今日読んだのは、白尾悠『サード・キッチン』です。 1998年、都立高校を卒業後、アメリカに留学した女性が、言語の壁や、様々なカルチャーショックを通して、臆病な自分と対峙していく物語です。 2020年の「ジョージ・フロイド事件」以降、「Black Lives Mat…

『百貨の魔法』村山早紀 | 2018年本屋大賞ノミネート作品、昭和のノスタルジー漂う百貨店に舞い降りる奇跡

今日読んだのは、村山早紀『百貨の魔法』です。 2018年本屋大賞ノミネート作品でもあるこの作品、装丁の華麗さも見所の一つです。 地方の百貨店を舞台とした連作短編で、戦後の復興と発展の象徴でありながら、時代の波に抗い切れず閉店間近と噂される星野百…

『本にまつわる世界のことば』物語と本にまつわる世界中の言葉をあつめた大人の絵本

今日読んだのは、絵本『本にまつわる世界のことば』です。 本、読書、詩、言葉に関する世界中の慣用句やことわざが集められ、更にその表現にまるわるショートストーリーやエッセイが付記された贅沢で美しい大人のための絵本です。 積ん読"tsundoku" ペルシア…

『盤上に君はもういない』綾崎隼 | 【感想・ネタバレなし】もう一度だけあなたと指したい、二人の女性が挑戦する前人未到の女性のプロ棋士への闘い

今日読んだのは、綾崎隼『盤上に君はもういない』です。 史上初の女性プロ棋士を目指す二人の女性の熱い闘いとその裏に隠された切ない過去を描いた小説です。 "女流棋士"と"女性プロ棋士"は全く違うということを、今作で、はじめて知りました。 男女関係なく…

『私は古書店勤めの退屈な女』中居真麻 | 【感想】自分で退屈な女と言う女は大抵退屈じゃない

中居真麻『私は古書店勤めの退屈な女』のあらすじと感想を紹介します。 夫の上司と泥沼不倫中のシニカルなヒロインとゆる~いおっちゃんの、古書店での不思議で愛しい日々。

『さんかく』千早茜 | 【感想】男女が一緒にいることには理由がいるのだろうか、食べることが浮き彫りにする男女の相克

千早茜『さんかく』のあらすじと感想を紹介します。大学教授とパフェを食べに行く場面が印象的。食べたいように生きたいようにすればいいという潔い態度が心地よい。

『チーズと塩と豆と』角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織 | 【感想】4人の直木賞作家がヨーロッパンの都市を舞台に描く愛と味覚のアンソロジー

今日読んだのは、4人の直木賞作家のアンソロジー 『チーズと塩と豆と』です。 著者は、角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織という錚々たる面々。 角田光代は、スペインのバスク。 井上荒野は、イタリアのピエモンテ。 森絵都は、フランスのブルターニュ。 …

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人 | 【感想・ネタバレなし】日本昔ばなし×本格ミステリ、あの童話でミステリが書けるなんて!

青柳碧人『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のあらすじと読書感想を紹介します。ポップな題材と本格ミステリの見事な融合が楽しめます。

『たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説) 』辻真先 | 【感想・ネタバレなし】爽やかに蘇る少年少女らの戦後の青春のひと時と不可解な二つの殺人事件

辻真先『たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説) 』のあらすじと読書感想を紹介します。戦後の青春のひと時を分かち合う仲間との友情と、時代への温かな眼差しが感じられるミステリ。それだけにタイトルの意味が重い。

名探偵音野順の事件簿シリーズ 北山猛邦 | 【まとめ・ネタバレなし】世界一気弱な名探偵と楽天家の推理小説家の凸凹コンビ

北山猛邦著『名探偵音野順の事件簿シリーズ』は東京創元社から刊行されている推理小説シリーズです。 2021年1月に12年ぶりに待望の新刊が発売されました! 気弱なひきこもりの名探偵・音野順とその友人で推理小説家の白瀬白夜のコンビが活躍します。 いやが…

『しつこく わるい食べもの』千早茜 | 【感想】『わるい食べ物』 の続編エッセイ、コロナ禍のなかで食を愛する小説家は何を見て何を考えたか

千早茜『しつこく わるい食べもの』のあらすじと読書感想を紹介します。コロナの流行により、飲食店は自粛営業、食を愛する者として、小説家として、著者の生の声が聞こえる一冊です。

『匠千暁シリーズ(タック&タカチシリーズ)』西澤保彦 | 【あらすじ・ネタバレなし】刊行順・時系列順、おすすめの順番にまとめてみました

『匠千暁シリーズ(タック&タカチシリーズ)』とは、ミステリ作家西澤保彦のデビュー作『解体諸因』から続くシリーズです。 主に、安槻大学という架空の大学に通う4人の学生を中心とした推理シリーズですが、刊行の順番と、作中の時系列がばらばらであり、…

『ひきなみ』千早茜 | 【感想】どれだけ傷めつけられても、脅かされないものがある

千早茜『ひきなみ』のあらすじと読書感想を紹介します。2人の少女の深い繋がりと、それがもたらす痛み。生きることの苦しみの果てに残る光が、新しい道をひらく。

『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』辻真先 | 【感想・ネタバレなし】東京と名古屋をまたがる殺人事件に昭和12年を生きる少年探偵が挑む

辻真先『夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』のあらすじと読書感想を紹介します。三冠を達成した『たかが殺人じゃないか』の前日譚。名古屋汎太平洋平和博覧会中に起きた殺人事件に少年探偵が挑む。

『オーバーロードの街』神林長平 | 【感想・ネタバレ】人間よ、人間をやめよ、〈地球の意思〉が人類に宣告する黙示録的SF

神林長平『オーバーロードの街』のあらすじと読書感想を紹介します。地球の意思が人間に告げる、人間よ、人間であることをやめよ。そして大災厄が訪れる。

『オービタル・クラウド』藤井太洋 | 【感想・ネタバレなし】スペーステロに日本のWebエンジニアが挑む、胸が熱くなるようなSF大作

藤井太洋『オービタル・クラウド』のあらすじと読書感想を紹介します。第46回星雲賞、第35回SF大賞受賞の著者の代表作、一人の技術者の小さな発見が大きな渦を巻き起こす。

『わるい食べもの』千早茜 | 【感想】新進気鋭の女性作家が旺盛に語る食・食・食!

千早茜『わるい食べもの』のあらすじと読書感想を紹介します。旺盛な食欲と飽くなき探求心、クールで情熱家な著者の素顔が垣間見える食エッセイ。

『追想五断章 』米澤穂信 | 【感想・ネタバレなし】五つの結末の無い物語が、変貌する真実を語る

米澤穂信『追想五断章 』のあらすじと読書感想を紹介します。平成4年の時代描写と主人公の心情と5つのリドルストーリーにまつわる謎と過去の未解決事件が呼応し合う贅沢な構成の小説です。

『西洋菓子店プティ・フール』千早茜 | 【感想】日常は甘いことだけじゃない、でも、スイーツはいつも寄り添ってくれる

千早茜『西洋菓子店プティ・フール』のあらすじと感想を紹介します。スイーツをめぐる、甘く酸っぱく、ときにほろ苦い人間模様を六つの連作短編が描きます。

『白鯨 MOBY-DICK』夢枕獏 | 【感想・ネタバレなし】ジョン万次郎が拾われた船が"あの船"だったら…史実と文学、歴史と虚構が交錯する巨編

夢枕獏『白鯨 MOBY-DICK』のあらすじと読書感想を紹介します。史実と文学が奇跡のように融合する巨編。著者のストーリーテラーとしての凄まじい才能を再認識する一冊です。

『本のエンドロール』安藤祐介 | 【感想】一冊の本がつくられるまでの無数の仕事人たちの熱き情熱

安藤祐介『本のエンドロール』のあらすじと読書感想を紹介します。本の奥付の向こうに隠れた、一冊の本を”つくる”人々が奏でる熱きお仕事小説。

『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信 | 【感想・ネタバレなし】最後の一行が密やかな衝撃をもたらす、物語の夢想に魅せられた全ての者に贈られる連作ミステリ

米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』のあらすじと読書感想を紹介します。最後の一文がもたらす衝撃にこだわった連作ミステリ。いつしか、密やかで罪深い世界に引きこまれる。

『Iの悲劇』米澤穂信 | 【感想・ネタバレなし】現実が物語を超える瞬間を目の当たりにする

米澤穂信『Iの悲劇』のあらすじと読書感想を紹介します。地方移住の闇を描く、コロナ禍の今だからこその読み方ができる貴重なミステリです。

『物語を忘れた外国語』黒田龍之助 | 【感想】物語と言語との間を自由に飛び回る著者の遊戯三昧の読書記

黒田龍之助『物語を忘れた外国語』のあらすじと読書感想を紹介します。まるで目の前で喋ってくれているかのようなユーモラスな口調で語られる、自由で豊かな物語と言語との関係。

『東京の子』藤井太洋 | 【感想】オリンピック開催されていたはずの2023年の東京を失踪する若者たちをクールに描きだす

藤井太洋『東京の子』のあらすじと読書感想を紹介します。ドライな未来を描いているようで、熱い希望をどこかに潜ませてくれている藤井太洋ならではの近未来小説です。

『僕たちの正義』平沼正樹 | 【感想・ネタバレ】死んで当然の人間は存在するのか、一人の少女の死から溢れる人間の闇とは

平沼正樹『僕たちの正義』のあらすじと読書感想を紹介します。臨床心理士の主人公が背負う深い業に、自分自身の倫理観が揺らぎそうになりました。

『本と鍵の季節』米澤穂信 | 【感想・ネタバレなし】学校図書室で繰り広げられる、掛け替えのない友人とのほろ苦い青春の日々

米澤穂信『本と鍵の季節』のあらすじと感想を書きました。探偵二人というちょっと変わった構成に、男子高生同士の小気味よい会話の応酬、米澤ミステリらしいビターな持ち味が堪能できました。