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『匠千暁シリーズ(タック&タカチシリーズ)』西澤保彦 | 【あらすじ・ネタバレなし】刊行順・時系列順、おすすめの順番にまとめてみました

『匠千暁シリーズ(タック&タカチシリーズ)』とは、ミステリ作家西澤保彦のデビュー作『解体諸因』から続くシリーズです。

主に、安槻大学という架空の大学に通う4人の学生を中心とした推理シリーズですが、刊行の順番と、作中の時系列がばらばらであり、しかも作品ごとに違う版元から出版されているので、読む順番に非常に迷うシリーズでもあります。

私自身は、刊行順に読んでいったのですが、2009年刊行の『身代わり』のあとがきで、著者自身が、以下のように述べています。

本作は、ミステリとして独立した事件こそ取り扱ってはいるものの、レギュラーキャラクターたちを巡るドラマに関しては同シリーズの『依存』の後日談という意味合いの色濃い趣向になります。

なので、できれば本作の前に長編⑤『依存』に、そしてさらにむりをお願いできるなら作中の「R高原」が出てくる長編②(『麦酒の家の冒険』のこと)、佐伯刑事と七瀬刑事が初登場する長編③(『仔羊たちの聖夜』のこと)とに、それぞれ目を通しておいていただければと思います。

著者も薦めておられる通り、是非、作中の時系列順に読んでいただくことをおすすめします!

おすすめポイント

個性豊かなキャラクターが醸し出す90年代の学生のノリが懐かしくも温かい雰囲気を出しています。

とにかく、作中で消費されるアルコールの量が尋常でなく、お酒好きかつミステリ好きにはたまらないシリーズです。

特に『麦酒の家の冒険』は、ビール党のミステリ愛好家は一度は読むべき名作です。

個性豊かな登場人物

匠千暁たくみちあき

通称タック。 最初の事件である『彼女が死んだ夜』では安槻大学2回生。卒業後を描いた『解体諸因』では、フリーター。学生時代から、木造モルタル六畳一間、風呂なし、トイレ共同のアパートに住み、本以外のモノほとんど持たない暮らしをしている。達観したような雰囲気から、周囲からは"仙人"呼ばわりされているが、飲みに誘われたら決して断らない無類の酒好き。

高瀬千帆たかせちほ

通称タカチ。タックの同回生。170cmか180cm近くのスーパーモデルじみたスタイルに、鋭角的な冷たい美貌の才媛。卒業後は東京で就職している。その触れれば切れそうな雰囲気から、近寄りがたいと周囲から思われているが、ボアン先輩のしつこい誘いに根負けして、飲み会の場に参加している。ある謎に対して推論を組み立てることに、執拗にこだわる面がある。

羽迫由起子はさこゆきこ

通称ウサコ。タック・タカチと同回生。 小学生にも間違われそうな幼児体型で、天真爛漫な性格から、4人組のマスコット的存在になっている。卒業後は、何度かシリーズに登場している平塚刑事と結婚、同時に修士課程に進学している。

辺見祐輔へんみゆうすけ

通称ボアン先輩。 タカチからはボンちゃんと呼ばれている。なんども留年と浪人を繰り返しており安槻大学の牢名主的存在。定期的に人からお金を借りて、東南アジアのあたりを放浪している。人を集めて飲み会を開催することとが生きがいで、4人組がつるむことになる切欠となる人物。精神的にも肉体的にも恐るべきタフさを誇る。卒業後は、女子高教諭となる。

各作品のあらすじと感想

おすすめの読む順番にまとめてみました!

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

 1.彼女が死んだ夜

 

匠千暁、最初の事件です。

大学2回生の7月~8月にかけて起こった事件で、友達の家で飲み明かしてモーニングに行くとか、90年代初頭の学生時代のゆる~いノリが楽しいです。

"ストッキングに入れられた髪"というアイテムが異彩を放っていて、これに合理的理由がつくの?、と疑いながら読みましたが、見事にきちんと着地させていてスゴイ!となりました。

ボアン先輩のタフかつ優しい人柄が随所に光る一冊でもあります。

門限が6時という超保守的かつ厳格な両親にもとで育った箱入り娘のハコちゃん。やっとのことで許可を得たアメリカ旅行の前夜、帰宅すると見知らぬ女性の死体と、そのそばに何故かストッキングに入れられた髪の束が!。そして、後日、別の場所で発見された男性の死体の横にも同様に、ストッキングに入れられた髪が発見される。しかも、死体と髪は別人のものだという。犯人の目的と正体とは?

 2.麦酒の家の冒険

 

匠千暁ことタック、2回生の9月ごろの事件です。

私は、この作品からミステリというジャンルにはまりました!

基本的にビールを飲みながら、4人があれこれ推理をひねくり回すだけの本なのですが、次々に提示される推理が何ともスリリング!

何より、人が死なないので、安心して推理に身を任せられる安心感があります。

年に数回、ビール片手に再読しています。

高原での旅行を楽しんだ4人が迷い込んだのは、一台のベッドと冷蔵庫しかない一軒家。そして、冷蔵庫の中には96本のボールと、冷凍庫には13個のジョッキ。このビールの館はなぜ存在するのか。4人は酩酊しながら推理合戦を開始する。

 3.仔羊たちの聖夜

 

タック二回生の12月下旬の事件です。

 こうしてみるとタックたちは、二回生の一年間で何度も事件に遭遇していることになりますね。すごい……。

前作とは打って変わって、重い読後感の作品です。

"親子という呪縛"というシリーズ通しての重要のキーワードが主題となります。

反面、タックとタカチの初対面が描かれる貴重な作品でもあります!

一年間のクリスマスイヴ、それはタック、タカチ、ボアンがはじめて揃った日。その日、彼らは女性の転落死を目撃する。その現場では5年前も少年が自殺したという曰く付き場所だった。あるきっかけで、女性の転落死の謎を追うことになったタックとタカチは、やがて二つの事件に潜む深い闇を対峙する。そして、新たな事件が……。

 4.スコッチ・ゲーム

 

恐ろしい美貌のヒロイン・タカチこと高瀬千帆の抱える傷が描かれるシリーズの中でも重要な位置づけの作品です。

それまで、それとなく匂わせていたタカチの過去が明らかになります。

ミステリとしても、細かい伏線がタックによってスルスル回収されていく快感がたまりません。

また、タカチの同級生の語る男性のナルシズム論は一読の価値ありです。

しかし、タカチの父親とタックの対面が今からとても楽しみでなりません。

高校卒業間近の3月、高瀬千帆は寮の同室で恋人の恵の惨殺事件に遭遇する。そして、その後も次々、学園の生徒が殺されていく。容疑者は、恵との関係が噂されたいた教師の惟道。しかし惟道は、河原でウイスキーを捨てていた人物を見かけた、というアリバイを供述。千帆は恵の事件から引き離されるように、地方の安槻大学への入学を決める。2年後、真相が匠千暁によって日のもとにさらされる。

 5.依存

 

シリーズ中、最も重要な位置付けにある作品と言えます。

これまで、明かされることのなかった千暁の衝撃的な過去が明らかになります。

また、作中で幾つかの事件があり、それについて4人組があれこれ推理合戦をするお決まりのパターンがあり、それらが最後には一つに収束していく、読み応えのある一冊です。

また、それまでマスコットキャラ的扱いだったウサコが語り部を務めることも重要な要素です。

それまでカワイイだけの存在であったウサコの内面がはじめて語られます。

本書はウサコのほろ苦い青春の物語としても読むことができるでしょう。

重い話ではありますが、ウサコの言葉で締めくくられる美しいラストについ涙したくなります。

千暁ら安槻大に通う学生7人は、白井教授の自宅に招かれる。
そこで出会った教授の再婚相手を見て、千暁は青ざめる。
「あの人は、ぼくの実の母なんだ。ぼくの双子の兄は母に殺されたんだ」
衝撃の発言から始まる、母と子の呪縛と、解放の物語

 6.身代わり

 

前作『依存』の後日譚の意味合いが強い作品です。

あれだけのことがあった後、タックとタカチはどうなったのか、ファンの心配に応えてくれる一冊です。

主題となる事件も複雑で、もう一回読み直さないよ事件全体を把握できないな、と思っています。

しかし、4人組が再び揃うシーンでは思わず、快哉をあげたくなりました。

近頃妻と不和を抱える会社員が、深夜の公園で大学生が女性に乱暴しようとし反撃され死亡する事件を目撃する。数日後、女子高生が自宅で殺害される事件が発生。そして犯人は、何故か巡回中の警察官も殺害していた。二つの事件が交錯するとき、千暁と千帆が現れ複雑に絡まった糸をほどく。

 7.解体諸因

 

著者のデビュー作で、シリーズで一番古い作品です。

タイトル通り、バラバラ殺人にこだわった短編集です。

大学卒業後のタックやボアン先輩の様子が描かれていますが、一部在学中のお話もあります。

個人的には、エレベーターが乗る前が生きていた女性が、1階に着いたときにはバラバラになっていた、という奇妙な事件を追う「解体昇降」がお気に入りです。

エレベーター内の16秒間にバラバラにされた女性、切断されたクマのぬいぐるみに失くしたはずのハンカチが巻かれていた。
トリックの粋を尽くした9つのバラバラ殺人事件を収録した珠玉の短編集。

 8.謎亭論処 匠千暁の事件簿

 

『麦酒の家の冒険』好きとしては「新・麦酒の家の冒険」があるのがすごく嬉しいです。

卒業後の、4人組の進路がはっきりと分かる短編集です。

ウサコがシリーズに何度か登場している平塚刑事といつの間にか結婚しているのにもびっくり!

盗まれた答案用紙が翌朝には戻されていた、なぜ?(盗まれる答案用紙の謎」)。偽の家賃督促状が投函されたその目的とは(「見知らぬ督促状の謎」)。新たな麦酒の家誕生か? ボアン先輩に連れていかれた一軒家にはビールケースが山と積まれていた(「新・麦酒の家の冒険」)。酩酊しながら推理する、ビール必須の短編集。

 9.黒の貴婦人

 

『依存』の前日譚とも言える「黒の貴婦人」が収録されていて、ファンとして逃せません。

また、全体的に毒が聞いていてピリ辛な短編集です。

女子学生の合宿中に起きた事件を扱った「スプリット・イメージ」は、そのテーマから読み人を選びそうですが、他人から見たタックやタカチ、ウサコの姿が描かれる貴重な作品でもあります。

4人組が飲み屋に行くときいつも見かける「白の貴婦人」の正体と、名物・鯖寿司との意外な関係を推理する表題作。死んだ愛人の遺したジャケットを手に取る女性。生前、彼はそれを"宝物の地図"と言っていた。宝物とは何だったのか、その謎を追ううち、彼女は一人の青年と出会う(「ジャケットの地図」)、盗まれたご祝儀の行方を推理しながらそこにいない友を想う(「夜空の向こう側」)、ほろ苦い青春の味を詰め込んだ短編集。

10. 悪魔を憐れむ

 

『謎亭論処 匠千暁の事件簿』でちらっと触れられていた、ウサコと平塚刑事のなれそめがここで描かれます。

表題作の「悪魔を憐れむ」は、シリーズ通してのテーマ、親子関係という呪縛を象徴するようなダークな作品で、「仔羊たちの聖夜」の重苦しさを彷彿とさせます。

反面、タックの相変わらずの暮らしぶりにちょっと安心したりもします。

「恩師が自殺しないよう見張ってほしい」と依頼されたにも関わらず、老教授は転落死してしまう。その死の裏に隠された断ち切れぬ"悪魔"たちの系譜が暴かれる表題作。心霊現象を突き止めるべく平塚刑事の実家に招かれたタックとウサコが、長年家族を縛り付けてきた呪縛の真相を突き止める(「無限呪縛」)。ファン待望のシリーズ最新作。

 

まとめ

おすすめの読む順番(時系列順)

『匠千暁シリーズ(タック&タカチシリーズ)』のおすすめの読む順番は、以下のようになります。

  1. 彼女が死んだ夜』(1996.8)
  2. 麦酒の家の冒険 (講談社文庫)』(1996.11)
  3. 仔羊たちの聖夜』(1997)
  4. スコッチ・ゲーム』(1998)
  5. 依存』(2000)
  6. 身代わり』(2009)
  7.  『解体諸因 (講談社文庫)』(1995)☆短編集
  8. 謎亭論処―匠千暁の事件簿 (祥伝社文庫 に 5-3)』(2001.4)☆短編集
  9. 黒の貴婦人』(2003)☆短編集
  10. 悪魔を憐れむ (幻冬舎文庫)』(2016)☆短編集

ただし、☆短編集の中には、それぞれ時系列が違う話が収録されているので、短編集を読む順番自体はそこまでこだわらなくていいかな、と思います。 

刊行順

ちなみに、一番古い版元からの刊行順に並べると以下のようになります。

『解体諸因』は著者のデビュー作でもありますので、著者のシリーズへの考え方の推移を追うため、あえて刊行順に読んでいく、という読み方も個人的にはアリかな、と思います。

  1. 解体諸因 (講談社文庫)』(1995)
  2. 彼女が死んだ夜』(1996.8)
  3. 麦酒の家の冒険 (講談社文庫)』(1996.11)
  4. 仔羊たちの聖夜』(1997)
  5. スコッチ・ゲーム』(1998)
  6. 依存』(2000)
  7. 謎亭論処―匠千暁の事件簿 (祥伝社文庫 に 5-3)』(2001.4) 
  8. 黒の貴婦人』(2003)
  9. 身代わり』(2009)
  10. 悪魔を憐れむ (幻冬舎文庫)』(2016)

 

とても、青春とアルコールと魅力的な謎が満載のシリーズです!

皆さま、アルコールを準備して酩酊しながら読むことをお薦めします。