『この世にたやすい仕事はない』津村記久子 | 【感想・ネタバレなし】仕事とは一つの宇宙、ちょっと不思議でニッチなお仕事小説
今日読んだのは、津村記久子『この世にたやすい仕事はない』です
前職を燃え尽き症候群で辞めた36歳の女性が5つの短期のお仕事をする、という小説なのですが、どれも超マニアックな仕事ばかりで、世の中には変わった仕事が沢山あるものだと感心してしまいます。
女性の一人称で綴られる文章には乾いたユーモアがあって、心の中でノリ突っ込みしてる場面など、何度もぷぷっと笑ってしまいました。
また、結構、不思議(?)な現象やハラハラする場面もあって、タイトルから受ける印象よりより動的な物語でした。
まあ、仕事に全力傾けちゃう方こそ、肩の力を抜いて読んでほしい小説です。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
前職をバーンアウトして辞めてしまった36歳の私が1年で5つの仕事を経験する。
退屈な小説家の監視、巡回バスの広告アナウンス作成、おかきの包装紙のネタづくり、ニッチでマニアックで、少し不思議な仕事を通して、働くことへのモチベーションを取り戻していく過程を描いた連作短編。
おすすめポイント
ニッチでマニアックな仕事が次々に紹介されていく過程が面白いです。
少々(超少々)SF的な要素もあり、一筋縄ではいかないお仕事小説を求めている方におすすめです。
タイトル詐欺
タイトルが「この世にたやすい仕事はない」なので、どんな仕事にも辛さがあるんやー!みたいなマチョイズム的思想を押し付けられるのではないかと、戦々恐々としていたのですが、これは著者一流のユーモアだったようで、物語全体の根底に流れるメッセージは、仕事なんてそんな大したことないんやー!に近い気がします。
そこそこ関西弁が入ってしまうのは、最後の話「大きな森の小屋での簡単なしごと」に登場する上司、箱田さんが関西弁だったからです。後、私も、もともと関西人だからです。
脳内ツッコみの多い主人公の「私」と一緒に、ニッチでマニアックな仕事の世界に足を踏み入れたが最後、どんどん先に先に誘われ、何故か読み終わった後には、仕事したいな~と思ってしまう恐ろしい小説です! ちょっと注意!
また、第2話「バスのアナウンスのしごと」では、不思議なんだけどSFとかオカルトではない程度の極々少々不思議な出来事があるのですが、話の勢いに飲まれて、まあそんなことも世の中にはあるかもね、と思ってしまうのも何か怖い!面白い!
色んな意味でタイトルを裏切り続ける一筋縄ではいかないお仕事小説です。
主人公のキャラクターの面白さと仕事という宇宙
主人の「私」はどの仕事場でも優秀という評価を受け、それなにり実績も積み増す。
しかし、客観的に読んだ印象では、優秀な人材というより仕事に前のめりになりがちでちょっと危なっかしく感じます。
どの仕事もニッチでマニアックなのですが、反面、退屈な人には退屈な職業ばかり(小説家を一日中監視するとか、ポスターを各家に訪問して貼り続けるとか)で、流して仕事しようと思えば幾らでもできる職種です。
しかし、「私」はどの仕事でもついついのめり込んでしまいます。
第3話「おかきの袋のしごと」でも、包装紙の裏の小ネタについて傍から心配されるほど真剣に考えたり、それが評価されてることに喜ぶよりプレッシャーを感じたり。
第4話「路地を訪ねるしごと」では、ポスターを各家に訪問して貼ればいいだけなのに、地域に浸食する謎の思想団体を一掃することに意外なパワーを発揮したり。
本当に燃え尽き症候群なの?と、こっちがツッコんでしまいます。
前職をストレスで辞めた女が色んな職業でモチベ復活!なんて単純なあらすじでは説明しきれない異様なパワーを感じさせます。
仕事が変わるたび新しい宇宙に投げ出されるようなある種SF的感触がするところが、この一連の小説の興味深いところです。
主人公の前職とは
主人公は前職を面白かったけど、しんどいのに耐えかねて辞めているのですが、その仕事がなんであったかは、最後の最後に明かされます。
読み終わってから気付いたのですが、途中途中に色んなヒントが散りばめられているので、主人公の前職がどんな仕事だったのか推理しながら読む、というのも面白い読み方かもしれません。
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