書にいたる病

ものがたり大好き主婦の読書記録

『さんかく』千早茜 | 【感想】男女が一緒にいることには理由がいるのだろうか、食べることが浮き彫りにする男女の相克

今回ご紹介するのは、 千早茜さんかく』です。

 

最近、この著者のつくるお話にすっかりはまってしまって次々読んでいます。

このお話、食をめぐる男女の三角関係の物語なんですが、下記の著者のエッセイを先に読んでいると、むふふっとなるネタがいっぱいで、色んな意味で楽しかったです。

 

rukoo.hatenablog.com

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では、あらすじと感想を書いていきます

あらすじ

京都の町屋に住むフリーランスのデザイナー・夕香
夕香のバイト時代の後輩で、大阪の厨房衛生用品会社の営業職・正和
正和の恋人で、博士課程の華

夕香と正和は食の趣味が合う、という理由だけで同居をはじめる。
やましいことは何もないはずなのに、正和はそのことを華に言い出せない。
食べることが浮き彫りにする、男女関係の、人間の、面倒臭い愛しさ。

おすすめポイント 

苦手だったり、体に悪い食べ物など、ただ"美味しそう"だけじゃない食べ物の描かれ方に好感が持てます。

男女の三角関係の話ですが、ドロドロではありません。ドロドロ系苦手な方におすすめです。

華ちゃんのこと

本書は、夕香、正和、華の三つの視点がくるくる入れ替わります。

特に華ちゃんは、私の昔の友人にとてもよく似ていて懐かしくなります。

京都の大学院(おそらく京大)で博士課程に在籍し、研究室から呼び出しがかかれば、深夜だろうが、彼氏との旅行先だろうが、すっ飛んでいく彼女の姿に、ライブ後の飲み過ぎてゲロまみれの姿で、ぼそり「行かなくちゃ」と研究室に戻っていった友人の背中が重なりました。

華の好きなエピソードに、正和が研究室から帰ったばかりの華のためにフライドチキンを買ってきてあげるのですが、華は、採卵鶏の年間処理数や、ブロイラーの品種改良などの話をしはじめ、ドン引きされる、というところがあります。

あらゆる動物の解剖に携わる華は、アズマモグラの死体が保管されている冷蔵庫に入れていたサンドイッチも躊躇なく食べるし、農学部のともちゃんともカエルの感染症の話などしながらおやつをつまみます。

そのくせ、ともちゃんにもらうお菓子の賞味期限を地味に確認したりするのが、彼女の面白いところです。

居心地よくズルい関係

そこまで夢中になれるものを持っていることが羨ましい、という正和の気持ちがよく分かります。

華ちゃんの生活に正和が必要かというとそうではないですから。

だから、正和はついつい自分の面倒を先回りして見てくれる年上の夕香との生活に居心地の良さを感じてしまいます。

不倫に疲れた夕香も、恋愛という生臭さのない正和との生活を、これでいいのかな~と思いながらも、ついつい続けてしまいます。

やましいことは何もしていないつもりなのに、正和は夕香とのシェアハウスのことを華に言い出せずにいるのは、華ちゃんに満たしてもらえないもの、きちんとした生活とか食事とか、そういうものを他の女の人に代わりに満たしてもらおうとする気持ちそのものがセコくてズルいと分かっているからでしょう。

夕香も夕香で、正和に恋人がいたら面倒なことになることくらい分かっているはずなのに、わざと知らんぷりしているところがあります。

私は、知らない、あなたの問題でしょ?と言わんばかりに(実際そう言います)。

そして後から、しこたま反撃されます。

「同じですか」

「え」

伊東くんはじっと空のどんぶりを見つめていた。

「ぼくのときと。前に、高村さんは言いましたよね。いまと同じトーンで知らないって。ぼくに彼女がいるかいないか自分は確認すべきことだったのかって。それと同じですよね。相手が結婚しているか、していないか、確認していないし、するつもりもないから、自分のしていることは不倫じゃないって言いたいんですか」 (「鯖寿司」)

いい大人なんですから、知らないし、知るつもりもないから、という態度はズルいよね、ということですね。

お互いを自尊心のために都合よく利用するだけの関係はずるく居心地よいものですが、本当に欲しいもの、大切なものを維持するためには、面倒臭さと向き合わなくちゃいけないことでもあります。

大学教授とパフェ

華の担当教授である堀先生が、銀座のカフェにパフェを食べに連れて行ってくれる場面では、そういう面倒くさいことへの向き合い方をそっと導いてくれる名シーンだと思います。

「本音を言うと、食事はなにも考えず短時間で済ませたい」と語り、「嗜好品に時間をかけることの必要性がいまだにわからない」と言い、食事はいつも研究室に大量に常備してあるカップラーメンで済ませてしまうバツイチの大学教授が、教え子にわざわざパフェを食べさせに銀座のカフェに立ち寄る意味。

「黒いベストと蝶ネクタイをぴしりと身に着けた若くはない男性給仕」にきびきびと、けれど優雅に給仕されて、「王冠のような」苺のパフェを食べ終わった後、教授は教え子に語りかけます。

「この時間にどんな意味や価値があるか、今もやはり分からない。ただ、ここはここで完成されたひとつの世界です。彼らの仕事は優雅で無駄がない。それこそ、収蔵庫に保管された骨格標本のように」

そう言って、空いたテーブルのクロスを替える給仕の動きを見た。

「若い頃の私は違う世界に目を向けないきらいがありました。合理的であろうとすることは研究者として大事な姿勢ですが、それは必ずしも正解ではないんですよ。無駄だと思うことの中にヒントが隠れていることもあります」

パフェという嗜好品に人生の豊かさを託す、こう書かれると毎日を彩るお菓子が一層愛おしくなりようです。

こういう先生に、大学のときに出会っていたら、と自分の学生時代を懐かしく思い出しました。

思い出すと、意外といい先生ばかりだったのが懐かしい……。

あと、パフェ食べたい。

今回ご紹介した本はこちら

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