書にいたる病

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『本と鍵の季節』米澤穂信 | 【感想】学校図書室で繰り広げられる、掛け替えのない友人とのほろ苦い青春の日々

今回ご紹介するのは、 米澤穂信本と鍵の季節 (集英社文芸単行本)』です。

米澤穂信といえば、アニメ化もした人気作「古典部シリーズ」や、11年ぶりに新刊が出てファンを興奮させた「小市民シリーズ」でもお馴染みの作家ですよね。

ほろ苦い青春を描くことに定評がありますが、私個人としては、先に挙げたシリーズ作や『さよなら妖精』『犬はどこだ』など初期の作品含め、あまり後味の良くない話を書くことが多い小説家として警戒もしています。

本書も表紙やあらすじから、ほろ苦い青春ものであることは想像できていたのですが、予想外の絡繰が仕込まれていたりで、やはり一筋縄ではいかない作家だなあ、と感心しました。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

高校二年生で図書委員の僕こと堀川次郎と松倉詩門は利用者のほとんどいない学校図書室で、くだらない話をしながら当番を務める仲。引退した先輩が祖父の遺した金庫の番号を解いてくれないかと、持ち掛けてくる「913」、美容室で目撃したある事件(ロックオンロッカー)、他、男子高生2人が遭遇する謎を解き合う六編が納められた一冊。

 おすすめポイント 

探偵役が2人というちょっと珍しい構成のミステリで、同じくらい頭が切れる2人だからこその小気味よい駆け引きや、息の合った会話が楽しめます。

米澤穂信らしく、青春の爽やかさは残しつつ、やはり現実の苦さをしっかり残してきます。ただ主人公の性格が善良なので、そこまで読後感は悪くないのが救いです。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、過敏な方はご注意ください。

二人の探偵

こういうタイプのミステリは、主人公である"僕"が善良だけどちょっと間抜けなワトソン役になり、その相棒がホームズ役になりそうなものですが、この話はそこが少し変わっていて、僕こと堀川とその友人である松倉双方が探偵役を務めます。

つまり、全編にわたり、ワトソン役を演じるのは読者自身ということになります。

僕こと堀川と松倉は、高校の図書委員を通じて出会い、図書委員の当番業務を通じて、徐々に距離を縮めていきます。

その過程で図書室に持ち込まれる相談に乗ったり、二人で出会った謎を何となく目撃したりしてきます。

ここで、問題なのが、双方とも頭が切れるため、少しの会話の応酬で相手の真意を読み取ってしまうことです。

読者も作中に登場する第三者も二人の交わす言葉少ない応酬に、え?え?今の会話どういうこと?、と戸惑いますが、後になると、そうだったのか!、と納得することになります。

しかし、作中で、松倉が指摘する通り、隠し事や謎に聡い点は双方同じでも、それに対するアプローチは全く異なります。

簡単に言うと、基本的に、堀川はお人好しですが、松倉は皮肉っぽく疑り深い性格です。

そのため、お互いの推理が摩擦する瞬間もあり、その瞬間のスリルやそこで爆発的に披露される思わぬ真実にぐっと心を掴まれます。

お互いでしか共有できない洞察力や推理力を抱えながら、それ故に相手の事情に必要以上に踏み込むまいとしている二人の関係は、薄氷を踏むように危うく、第三者が立ち入れない親密さを含み、まさに探偵同士ならではの"友情"を感じさせます。

もちろん、この二人のどちらかをワトソン役に据えても、ミステリとして十分成立すると思うのですが、二人を探偵役に据える、というだけで、ここまで話に緊張感が生まれるのかと、ちょっと驚きました。

青春というものの正体

途中まで、堀川・松倉二人で謎に挑んでいきますが、終盤にかけ二人は相対せざるを得ない局面に立たされます。

それまで、お互いをあくまで学校での友人に留め、プライベートを詮索しまいと気をつけていた二人も、本当の意味で友人と向き合うことを余儀なくされます。

なぜ、それまで弱みを見せなかった松倉が、堀川という友人を自分の抱える謎に巻き込んだのか、自分では解けなかった謎を、堀川という自分とは異なる眼を持つ人間に再検討してほしい、というのがその理由でしたが、頭のキレる堀川を巻き込めば、どういう結末を迎えるか、松倉にはある程度予想がついたのではないでしょうか。

謎を解いてほしかったのか、解いてほしくなかったのか、止めてほしかったのか、隠したかったのか、結局のところ、高校生らしい迷いが、友人との対決への呼び水となります。

そしてそれは、堀川にとっても、松倉という友人と正面から向き合う機会となります。

友人という鏡を通り越して自分自身と向き合うこと、このプロセスこそ青春と私たちが読んでいるものなのかもしれません。

今回ご紹介した本はこちら

米澤穂信の他のおすすめ作品

小市民シリーズの第一作目

古典部シリーズの第一作目