『30センチの冒険』三崎亜記 | 【感想・ネタバレなし】30センチのものさしが世界と彼女を救う!哲学香る異世界ファンタジー
主人公の男性が迷い込んだのは「大地の秩序」が乱れ、距離の概念がめちゃくちゃになった世界。
手には何故か白い「30センチのものさし」。
そして、その世界で出会った不思議な女性・エナ。
世界と彼女を救うため、30センチのものさしを握りしめ冒険に立ち向かう、というファンタジックな物語です。
典型的なボーイミーツガールであり、また寓意的な描写が散りばめられた哲学の香りさえ漂う何ともいえない魅力に溢れた作品です。
ハッとするような言葉が沢山あり、泣かせに来る小説ではないのに何故かぐっとくるものがあります。
それでは、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
手には、覚えのない「30センチのものさし」が……。
「大地の秩序」が失われ、自由に移動することさえままならない世界で人々は滅亡の危機に瀕していた。
そして、「渡来人」であるユーリと出会ったことで、エナの時間が狂い徐々に若返るという現象に見舞われる。
世界の危機とエナを救うためユーリは、その世界には存在しないはずの「30センチのものさし」を手に冒険に立ち向かう。
おすすめポイント
寓意的な物語、哲学的な物語が好きな方におすすめです。
ちょっと変わったボーイミーツガールが読みたい方におすすめです。
本がちょっと変わった形で登場するので、本好きの方・読書好きの方におすすめです。
不思議な世界観
本書の特徴な何といっても、足元がグラつくような不思議な世界観です。
遠近の概念がしっちゃかめっちゃかになった世界。
近くに見えているものに届かず、遠くに見えているものがすぐ近くにある世界。
高く見えるものが低く、低く見える者が途方もなく高い世界。
街を襲う「歪みの嵐」と、人々を連れ去る「鼓笛隊」。
鳥のように羽ばたく「本」の群れ、砂嵐のなかを墓場へと歩んでいく「象」。
地図を全て記憶するという「ネハリ」、人々を導く厳格な「施政官」、移動を司る「測量士たち」。
それぞれが何のメタファーなのか、人々の行動が何を表しているのか、考えながら読む大人向けのファンタジーと言えます。
特に、何百もの本が鳥のように羽ばたいて空を渡っていく描写は、一瞬で映像が頭のなかに広がるような魅力的なシーンです。
本好きにほたまらないのではないでしょうか。
自らの使命を全うすること
本書には、個性的な登場人物が登場するのですが、そのなかでも印象的なのが”ムキ”という男性です。
ムキは代々受け継いだ何かの”訓練”を毎日欠かさず行っているのですが、その訓練が何のためのものなのか誰も、本人ですら知らないのです。
そのために、ムキは周囲の人々から軽んじられ、馬鹿にされています。
ムキの役目には一応名前があるのですが、「ー」と表現され、主人公のユーリには何故か聞き取ることができません。
どんなに馬鹿にされても、何のための訓練なのか分からなくても、ムキはいつか自分の役目が来ることを信じています。
性格はお調子者でおっちょこちょいなコメディリリーフ的なムキですが、自分の使命を見失わないその態度から、物語中、主人公をはじめ、人の背中を力強く押してくれる役割を担っています。
どんなに馬鹿にされようと、ムキは自分の目指す先を見失っていない。そんなムキの言葉が、僕の胸に響いて離れなかった。
ハッとさせられる言葉
本書中、私が最も印象的だったのがこちらのセリフ、
「だがマルト、他人の人生を簡単に論じると、それはいずれ、自分に跳ね返って来るぞ」
この言葉が、街のリーダー的存在である「施政官」が、若きエリートである青年・マルトを諭す言葉なのですが、切れ味が良すぎてこちらまでぐさりとやられてしまいました。
若く有能で将来を嘱望されているマルトは、それ故に人の弱さに対し少々無理解さを示します。
簡単に、人を許せないと口にするマルトに、思慮深い「施政官」はたしなめる意味でこの言葉を口にします。
私も普段、周囲の人間の行動を、外側からあれこれあげつらっていることがあるので、このセリフにぐさっ!と来ました。
「不倫なんて絶対ありえないし許せない」って言ってた奴がよりにもよって不倫したりするしな~、と思いました。
何に書いてあったのかは忘れましたが、そういう人は自分の時だけは「純愛」だというらしいです。面白いですよね。
この他にも、刺さるセリフが沢山あるので、是非一読をおすすめします!
今回ご紹介した本はこちら