書にいたる病

ものがたり大好き主婦の読書記録

『青年のための読書クラブ』桜庭一樹 【感想・ネタバレなし】乙女よ、青年たるものよ、永遠であれ!

今回ご紹介するのは、桜庭一樹青年のための読書クラブ(新潮文庫)』です。

『私の男』直木賞を獲得された著者の重要のテーマである''少女性’’をモチーフに、浮世離れした独特な文体で、異端の少女たちの百年を描いた作品です。

桜庭一樹の入門書としては最適ではないでしょうか。

では、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

良家の子女が通う名門・聖マリアナ学園。学園の創設から数々の事件の裏に潜み続けた異端の「読書クラブ」。その百年の歴史を歴代のクラブ誌が語る。乙女とは、青年とは、少女とは。

 おすすめポイント 

少女性という、直木賞作家である著者の原点に触れることのできる作品です。

学園という閉ざされた空間の百年のクロニクルを少々浮世離れした作風で描いている点が魅力です。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

青年たるもの

本書の各賞は聖マリアナ学園の読書クラブの代々のクラブ誌に掲載された文書の形をと

っています。

正当なお嬢様学校・聖マリアナ学園において読書クラブは常に正統から外れた異端の集団として存在し続けます。

また、『青年のための読書クラブ』と銘打ちながら、本書に登場するのは少女ばかりです。

では青年とは何なのか。著者はそれを、乙女のなかにしか存在しない生き物と定義します。少女の性欲が行き着く先、少女が演じ、現実にはいないからこそ愛される現実の男性とは別の生き物。

本書の青年とは、少女期の一瞬のときめき、夢、希望、何か透明なものに投げかけられる恋そのものなのでしょう。

だからなのか、本書の少女らはしばしば己を「僕」と称し、少年のような言葉遣いで話します。

各章の感想など

第一章 烏丸紅子恋愛事件

本書で一番印象的な物語といえるでしょう。

お嬢様学校・聖マリアナ学園に転校してきた烏丸紅子を巡る一連の事件を巡る物語です。

戯曲シラノ・ド・ベルジュラックを下敷きに、優れた頭脳を持ちながら少女の園のそぐわぬ外見を与えられた醜い少女・アザミと、類まれなる美貌ながら中身はコテコテの大阪人の転校生・烏丸紅子。

アザミは烏丸紅子を影ある美青年としてプロデュースすることで、影から学園を支配しようと目論みます。

その企みは見事成功し、烏丸紅子は学園の圧倒的スターとして君臨しますが、代償としてアザミは醜い自分にそれでも持ち続けていた誇りを売り渡したことに涙します。

「烏丸紅子恋愛事件」は短いながらも、一編の詩のように美しく残酷に少女期という幻想を垣間見せてくれます。

第二章 聖女マリアナ消失事件

学園の創始者・聖女マリアナの正体を明かす一編なのですが、正直、こちらの章はあまり印象に残りませんでした。

第三章 奇妙な旅人

バブル期の聖マリアナ学園を舞台にした一編です。この話が一番好きです。

バブルにかぶれ、ミラーボールの下で扇子を振り回し、学園を革命しようとし、最後には生徒会に追われた3人の少女らを読書クラブの部員・時雨と部長・きよ子は迎え入れることにします。

生徒会に主義・主張、プライドがないのかと侮辱されたきよ子が、ずいと足を踏み出てみせるシーンは印象的で、今の私のプライドの持ち方のお手本にもなっています。

きよ子はうっすらと微笑んで生徒会に向き直った。きよ子にももちろんプライドはあった。それどころか、この少女はじつのところプライドの塊であったのだが、それは世界に対する主義や思想ではなく、保護者として子供たちを守るという、極めて動物的な、半径三メートルのプライドであった。

「半径三メートルのプライド」、この言葉に当時、打ちのめされてしまいました。

第四章 一番星

学園内で突如ロックスターとなった内気な令嬢・山口十五夜と幼馴染・加藤凛子の痴話げんかのような話です。

部室で苺の香りの香水をかいでから、突然内なる情熱が爆発したようにバンドをはじめ、あれよという間に学園のスタートなった少女・十五夜

人気の絶頂で十五夜は、ホーソーンの『緋文字』になぞらえた曲を発表し、凛子の裏切り(異性交遊の疑い)を告発します。

甘い絶望と虚無のような苺の香水により突如、変貌する少女はまるで遠い過去に呪われたようです。

少女同士の、一見剣呑ながら甘ったるい百合的な関係が見れるのも醍醐味です。

第五章 ハビトゥス&プラティーク 

2019年、読書クラブの部員は終に1名となり建物の老朽化を理由に部室からも追い出されてしまいます。奇しくも彼女の名前は永遠(とわ)

第一章で、アザミがそうしたように、彼女も自らは影として少女の夢を体現しようと試みます。「ブーゲンビリア」という怪盗として、学園を賑わす影のスターをつくりあげます。

そして、永遠は、壊されようとする部室から、歴代のクラブ誌を生徒会に見つかることのないよう持ち出します。

学園の正史には語られることのない、異形の少女たちが思い思いに過ごした暗黒の百年の歴史が、終に幕を閉じるときがきます。

第一章の主人公であり、現在は、議員となって来賓として学園に招かれたアザミは学園の最後の少女らに、時代の終わりと新たな始まりの時を告げます。

「希望を失ったときは、助けあいましょう。未来を、まだ信じましょう。恐れず生きていきましょう。」

(略)

「ご清聴ありがとう。若い人たち。では、よき人生を。」

そして物語の最後も同じ言葉で締めくくられます。

乙女よ(そして青年よ!)、永遠であれ。世がどれだけ変わろうと、どぶ鼠の如く、走り続けよ。砂塵となって消えるその日まで。雄々しく、悲しく、助けあって生きていきなさい。

ご清聴ありがとう。若い人たち。では、よき人生を。

正史で語られることのない異端の少女の百年の暗黒史はこうして幕を閉じます。

では、よき人生を!

今回ご紹介した本はこちら

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