『Ank : a mirroring ape』佐藤究 | 【感想・ネタバレなし】私たちはいつから鏡のなかに自分を見るようになったのか
今日読んだのは、、佐藤究『ank:a mirroring ape』です。
血と暴力の風匂う最新作、『テスカトリポカ』が話題をさらっている著者ですが、こちらも負けず劣らず嚙み応えのある物語です。
神話性や魔術性を感じさせる重厚な文章は、『13』『沈黙/アビシニアン』などの初期の古川日出男を彷彿させますね。
さて、それではあらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
おすすめポイント
ヒトとチンパンジー、その他の霊長類は何が違うのか、ということに興味を持つ方はおすすめです。またハリウッド映画みたいな骨太のエンタメ小説を読みたい人にもおすすめです。
人類の来歴の神話
本書は現代の京都を舞台としながら、どこか、神話的なオーラを立ち上らせます。
進化の過程で他の種族と切り離され孤独な種族となったヒト、その来歴を紐解く壮大な神話が本書では語られます。
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人類 とは何かーそれを調べるには、地上にいた古人類が
なぜかすべて死に絶えている以上 、DNAの遺伝情報がわれわれにもっとも近い類人猿を研究するほかかないー (p164)
鏡に宿る神秘と言語
2026年、霊長類研究者の鈴木望が京都に新たな霊長類研究所KMWPセンターを設立することから、物語ははじまります。
鈴木はKMWPセンターにおいて、チンパンジーの能力を図る研究の裏で、自分のある仮説を検証しようと目論んでいました。
それは、ヒトをヒトたらしめるもの「言語」の誕生と「鏡」にまつわる、ある仮説でした。
しかし、ある晩、京都を地震が襲い、研究所から逃げ出した一匹の雄のチンパンジー・アンクが凄惨な事件を引き起こします。
地震によりパニックに陥ったアンクが放った吠え声、
アンクは
なぜ、アンクの
鈴木はアンクを追いながら、自分の仮説を推し進め、ある恐るべき真実に辿りつきます。
ハードコアで魅力的な登場人物
本書では以下の3人の中心人間が描かれます。
この3人は暴動の中、理性を保つことのできたので、協力してアンクを追うことになります。
また、3人はその生い立ちにおいて、鏡・鏡像に強い関りを持っていることが示されます。
・鈴木望:主人公、幼少期父親に虐待される自分を鏡で見ていた
・ケイティ・メレンデス:ライター、鏡文字のタトゥーを入れている
・シャガ:京都の小学生、左右障害で鏡像の認識がない
アンクの
この個性的で行動力に優れた3人のキャラクターが、本書の魅力の一つになっています。
霊長類学者である鈴木は、チンパンジーの生態に精通した優れた研究者であり、ケイティは過去にトラウマを乗り越えた経験を持つタフな女性ライター、シャガはパルクールの達人かる精神的にもタフな小学生ながら頼れる存在です。
特にシャガは後半にしか登場ないキャラクターがですが、暴動の中、パルクールでチンパンジーと互角に追いかけっこするなど、その運動能力とタフさには目を見張ります。
鏡の恐怖ー自己鏡像認識
さて、先に述べた疑問、
なぜ、アンクの
この答えに辿りつくためには、「自己鏡像認識」という言葉が重要なキーワードとなります。
これは、鏡を見て自分だと分かる、という能力のことだそうです。
もちろんヒトはこの能力を持っています。
また、大型類人猿のうち、チンパンジー・ゴリラ・ボノボはこの能力を持ちますが、オラウータンは持ちません。
この大型類人猿と自己鏡像認識、DNAの塩基配列の関係が本書の衝撃の真相へと繋がっていくのです。
私たちが進化により、何を得て何を失ったのか。古代、失われた私たちの先祖は、鏡を見るときそこには何を見たのか。
本書は、私達読者を、古代の森から現生人類に至る長い長いDNAを旅へと導き、その深遠を覗かせます。
そして私たちは、DNAの深遠に潜む「鏡」の秘密に触れ、そこに映る自分自身に不意に恐怖することになるのです。
しばらくは、鏡が怖くなりそうです。
今回ご紹介した本はこちら