『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』青柳碧人 | 【感想・ネタバレなし】赤ずきんが探偵の異色の童話×ミステリ、ねえ、あなたの犯罪計画は、どうしてそんな杜撰なの?
今日読んだのは 青柳碧人『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』です。
赤ずきん、シンデレラ、眠れる森の美女、マッチ売りの少女、西洋の童話の登場人物を題材としたミステリという斬新なアイディアについつい手が伸びてしまいました。
赤ずきんが探偵役で、旅の途中で出会うさまざまな事件を解決していくという連作短編なのですが、物語を貫く一つの赤ずきん自身の重いストーリーもあり、メルヘンな登場人物とその物語のギャップが楽しいです。
では、あらすじと感想を書いていきます。
あらすじ
でも、途中で殺人事件に遭遇! 赤ずきんは無事に事件を解決できるのでしょうか。
シンデレラ、ヘンゼルとグレーテル、眠れる森の美女、西洋の童話をベースに書かれた斬新なミステリ。
おすすめポイント
西洋の童話がベースという斬新な設定にまず驚かされますが、中身はきちんとしたミステリになっています。
伏線の張り方も童話の中の物がベースになっていたり、ベースが童話である必然性がちゃんと確保され、それがミステリとして機能していることが素晴らしいです。
連作短編ですが、物語を貫く赤ずきん自身の一つの事件もあり、そちらも目が離せません。
小川恵子(瀬戸内デザイン)さんが装丁された ポップな表紙から、軽めのミステリかな~と読み始めたのですが、いい意味で期待を裏切られました。
まず、童話をベースにミステリをつくるという発想もすごいですが、そ
れぞれの章がちゃんとそれぞれの童話の持ち味を損なうことなく、ミステリとして成立していることに驚かされます。
それでは各章の感想など
ガラスの靴の共犯者
シンデレラをベースとしたストーリーです。
旅の途中、小川のほとりでシンデレラと出会った赤ずきんは、魔女にドレスとかぼちゃの馬車をつくってもらい、舞踏会に2人で出かけること。
ところが、かぼちゃの馬車が男を轢いてしまう! という衝撃の展開から始まります。
実は、男は馬車で轢かれる前に何者かに殺害されていたことが分かり、赤ずきんは犯人を推理しようとします。
最初のお話なので、あまり回りくどくなく、犯人もなんとなくわかっていますが、そこにたどり着くまでの過程が楽しいです。
なにより、12時になったら魔法が解けるはずなのに、ガラスの靴だけなぜ残ったのか、というシンデレラ物語自体の謎に説明がちゃんとついているのがすごいです。
犯人を問い詰める赤ずきんのセリフも、童話の赤ずきんがオオカミに尋ねる質問の仕方を踏襲していて、そこもにやりとさせられました。
「ねえ、あなたの犯罪計画は、どうしてそんな杜撰なの?」
甘い密室の崩壊
シンデレラ事件とは一転して、こちらの題材はヘンゼルとグレーテル。しかも、形式は倒叙ミステリで、犯人はヘンゼルとグレーテルと最初から提示されています。
殺されたのはお菓子の家の魔女とヘンゼルとグレーテルの継母。
しかも、お菓子の家は発見されたとき密室状態。
ヘンゼルとグレーテルの家に偶然泊まり、事件に遭遇した赤ずきんは、密室の謎を解き、犯人までたどり着くことができるのか、というお話です。
お菓子の家という現実には存在しない素材を、上手く密室をつくるトリックに活用しています。
また、物語の最初から仕掛けられている罠もあり、そこに騙された!と心地よい敗北感も味わえました。
眠れる森の秘密たち
名前の通り、眠れる森の美女を題材とし、複数の出来事が絡み合った事件です。
オーロラ姫が眠る前にかけられた祝福も、トリックの素材としている点には笑いました。
ただ、難を挙げるなら登場人物が多いうえ、個々の区別がつきにくかったのが残念です。
そこは、童話の中の人物+ミステリーなので、そこまで個性はいらない、ということなのかもしれません。
少女、野望のマッチを灯せ
ここまで旅をしてきた赤ずきんの目的が明かされる最後の章です。
マッチ売りの少女に題材をとっていますが、もとの物語とは似ても似つかぬ野望と野心に満ち満ちたマッチ売りの少女・エレンが登場します。
そして、これまでの章で散見していた伏線(お腹が空いても赤ずきんは自分のクッキーを食べようとしない、など)も回収され、赤ずきんは無事旅を終えることができます。
トリックとしては、おおざっぱに言えば屋敷ものに分類することができるかもしれません。
大がかりな仕掛けと、これまでの伏線の回収、と最後の章にふさわしいストーリーになっています。
また前述の赤ずきんの決め台詞
「ねえ、あなたの犯罪計画は、どうしてそんな杜撰なの?」
が、最後まで読むと最初とは違った意味に聞こえてきます。
童話に題材をとっているわりに、暗い話が多く(人が死ぬので当たり前ですが)、最後の読後感も決していいとはいえませんが、何故か何度も読み返したくなるような中毒性がありました。
著者の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』もぜひ読んでみようと思います!
今回ご紹介した本はこちら
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