書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『パンダより恋が苦手な私たち』瀬那和章 | 【感想・ネタバレなし】恋愛に足りないのは野性? 恋も仕事もボロボロの編集者が挑む動物×恋愛コラム!

今日読んだのは、 瀬那和章パンダより恋が苦手な私たち』です。

「動物奇想天外」と「生き物地球紀行」に夢中だった幼少期だったので、タイトルから思わず手に取ってしまいました。

ファッション誌志望だったのにカルチャー雑誌の編集にまわされ、いまいち仕事にノリきれないパッとしない編集者が、突然任された恋愛コラムのライティングにおたおたしながら、自分の夢と仕事に向き合っていく、というちょっと熱いお仕事小説です。

動物のちょっとしたミニ知識も取り入れられてお得感満載でした。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

カルチャー雑誌の新人編集者・柴田一葉はファッション誌で働く夢破れ、仕事に熱が入らない毎日。そんなとき、かつてのカリスマモデル・灰沢アリアの恋愛相談コラム企画を任されることになる。憧れのアリアとの仕事に気負う一葉だったが、アリア本人からは執筆を拒まれ、やむなく代筆をすることに……。そんなとき、「恋愛」の研究者・椎堂司の存在を聞きつけ、藁にもすがる思いで研究室を訪ねてみることに。しかし、椎堂は”動物”の求愛行動にしか興味を示さないトンデモない変人だった!
仕事に恋に悩む女子が挑むドタバタライフ!

おすすめポイント 

動物の豆知識が面白いです。 

夢と現実の落差に悩む女性の姿が等身大で描かれていて共感できます。
 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

夢と現実の落差に悩む人へ

本書はAmazonの紹介ではラブコメディーとなっているのですが、お仕事に踏ん張る女子の小説といったほうが実態に近いかな~と思います。

主人公の一葉のもともとの夢はモデル。しかし身長の伸びず父親譲りの大根足を受け継いだ一葉が早々に夢破れ、それならと、ファッション誌の編集者になるため厳しい就活戦線を勝ち抜き見事出版社に内定を貰います

しかし、入社式において会社がファッション誌から撤退することを聞かされ卒倒

その後3年間女性向けカルチャー誌「リラク」の編集者として、目の前の仕事を低水準でこなすだけの毎日を送っています。

そんな日々に、かつての神様・灰沢アリアの恋愛相談コラムの代筆をするという仕事が舞い込みます。

しかも同時期に、5年間付き合いそろそろ結婚を考えていた恋人に一方的に破局を告げられてしまいます。

仕事も恋もボロボロの一葉ですが、わがままなアリアに振り回されたり、変人動物学者・椎堂に呆れたりしながらも、一歩一歩前進していきます。

そして、当初は女王様気質で周囲を困らせてばかりのアリアにも、実は、秘められた苦しみと葛藤があることが分かってきます。

「こうありたい自分」と「現実の自分」が随分遠ざかっている者ですが。その距離に悩む多くの人がこの小説に共感できるのではないかな、と思います。

人間よ、もっとがんばれ!

そして、この小説のもう片方の主役はズバリ”動物たち”です。

本書には様々な動物の奇妙で素晴らしい「求愛行動」の数々が紹介されています。

そして、そこから思うことは、

人間はもっとがんばったほうがいい!、ということです。

動物たちの恋愛は、なわばりの広さや、狩りの上手さ、巣づくりの巧みさ、強さや健康さなど、求愛行動の基準がはっきりしていて明確です。

人間も、外見の良さや、経済力など、モテる理由は動物とさして変わらないのですが、その求愛行動の基準が曖昧なのです。

「動物たちの求愛行動はシンプルだ。気持ちを表現する手段も、パートナーを選ぶ基準も決まっている。選ぶ基準が個体ごとに変わったり、気分や年齢で変わったりしない。相手の気持ちを勝手に察したり、自分の気持ちに嘘をついたりもしない。気持ちを伝える手段もばらばらなら、相手を選ぶ基準もばらばら。そんな面倒くさい生き物は人間だけだ」

例えば、孔雀のオスは羽根の目玉が百三十個以上ないとメスから相手にされないという研究報告があるそうです。

目玉の数が少ないオスは繁殖相手を見つけられず諦めるしかありません。

動物の世界は明確故に残酷です。

でも、人間は違います。

経済力が無くても性格で伴侶を見つけられるパターンもありますし、性格が最悪でも経済力があれば、モテることもあります。

それ以外にも、家事ができる、気配りができる、お母さんに似てる、など様々な理由で選んでもらえるチャンスがあります。

場合によっては経済0家事0性格0の完全ヒモでも拾ってくれる奇特な人物もいたりします。

こうしてみると人間の恋愛は動物に比べ超イージーモード!

「相手の気持ちが分からな~い」なんてグダグダしょうもないことで悩むよりは、自分の持っている武器を手に、果敢に求愛行動に勤しんだほうが建設的だな、と思いました。

動物、面白い!

今回ご紹介した本はこちら