書にいたる病

活字中毒者の読書記録

『私的読食録』角田光代 堀江敏幸 |【感想】食べ物が出てくる本を探したいときに

お話の中の食べ物と私

食べ物が出てくる話が無性に好き、そういう人いませんか。

私がそうです!

小学生の時分、当時読んでいた外国の児童文学でやたらオリーブの実というものが出てきて(イタリアのお話だったのかな?)、それが美味しそうに思えたので、母親に頼みこんで、買ってきてもらったことがありました。

しかし、せっかく買ってきてもらったのに、私の感想は「これは違う!」でした。

喜ぶだろうと買ってきた母も微妙な顔をしていました。ごめんなさい。

今ではオリーブは大好きです。

 

閑話休題

 

今回ご紹介する本書は、雑誌「danchuで2007年4月から角田光代さん、堀江敏幸が交互に連載されていた文章を文庫化したもののようです

 食べ物が出てくる小説とその魅力を解説する、という、私たち食い意地のはったビブリオマニアには大変ありがたい一冊です。

dancyu.jp

 読むことでしか味わえないもの

読むことでしか味わえないもの (p43)

 これは、角田光代さんが執筆されたある回の表題なのですが、このとき取り上げたお話(のなかの食べ物)バーネットの『小公女』の甘パンです。

私は、この児童文学を幼少期、実家にあった児童文学全集で読んだのですが、

大富豪の娘から没落し学校の召使にさせられ、毎日意地悪な学園長にいじめられて、ひもじいおもいをしている主人公セーラが、せっかく手に入れた甘パンを貧しい少女に与えてしまう、

というシーンで、件の甘パンは登場します。

食い意地のはった私は、貧しくても意地悪されても優しさを失わないセーラの高潔さはそっちのけで、甘パンてどんな味がするんだろう、とばかり夢想していました。

せっかく高価な児童文学全集を買い与えてくれたのに、高潔さやら何やらは何も学んでおらず、今思うと両親に申し訳ないやら情けないやら。

でも、印象的なシーンなので、幼少期にこの話を読んだ多くの人が甘パンに夢中になったのではないでしょうか。

ところで、角田さんは、『アルプスの少女ハイジ』に登場するヤギのチーズをはじめて食べたとき(35歳だったそうです)、思わず「違う!」と心のなかで叫んだそうです。そして

きっとほんものの甘パンを食べてさえ、私は「違う! これは甘パンではない!」と思うのだろうな。本に出てくる食べものというのは、読むことでしか食べられないのだ。(p45)

と、独白されるのです。

わかる~! 

もう忘れてしまったけれど、私が、本の中で味わったオリーブの味も、やはり読むことでしか味わえないのでした。

 

食べ物が出てくる小説の事典として

本書は良質のエッセイ・書評として楽しめるのはもちろん、食べ物が出てくるお話を読みたいときの事典としても利用できるのです!

食べ物をテーマにした本は、料理名そのものがテーマになってたり、「~食堂」「美味しい~」とか、タイトルから探しやすいのですが、あくまで食べ物がテーマの小説でなく、小道具として。きらっと印象的に食べ物が使われていてほしい、というわがままな要望が私にはあり、そんなときは、本書から読む本を探すのです。むふふ。

 

小説のなかの食べ物好きだよ、という方ぜひ一読ください。

今回ご紹介した本はこちら