書にいたる病

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『ハロー・ワールド』藤井太洋 | 【感想】テクノロジーが創る未来を明るい確信で描く短編集

今回ご紹介するのは、藤井太洋ハロー・ワールド (講談社文庫)』です。

解説によると著者の藤井太洋さんは、2012年7月、電子書籍Gene Mapper」を専用の電子書籍販売サイトを独自で作成・販売することでデビューされた、という凄い人だそうです。

同年11月、Kindleが日本で発売開始され、「Gene Mapper」はその年の「Kindle本・年間ランキング小説・文芸部門」でトップを獲得しました。

その後も、『オービタル・クラウド』で「ベストSF2014[国内篇]」、「第46回星雲賞」、「第35回日本SF大賞」の3冠を達成されています。

私自身ゴリゴリの文系かつ機械音痴なこともあり、エンジニア出身だという著者の作品を、気になりつつどことなく敬遠していたのですが、解説のIT技術に詳しくない人も自然に楽しめる」という一文に覚悟を決め購入しました。

別に覚悟を決めるようなことでもないのですが。

感想としては、面白かった!の一言です。

では、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

 ITベンチャー・エッジに務めるエンジニア・文椎とその仲間がつくった広告ブロックアプリが、なぜかインドネシアで売れ始める謎を追う表題作「ハロー・ワールド」をはじめ、インターネットの自由と豊かさを担保するため闘うエンジニア・文椎の姿を通し、世界とつながる希望を描く連作短編集。

 おすすめポイント 

仮想通貨やアプリ開発などIT系をテーマとした小説ですが、門外漢でも十全に楽しめる小説です。

何かをつくって世界とつながりたいな、と素直に思わせてくれます。

 

注意! ここからネタバレします。

各短編の内容

ハロー・ワールド

本書の表題作で、ITベンチャー・エッジに務めるエンジニア・文椎とその仲間がつくった広告ブロックアプリが、なぜかインドネシアで爆売れする、という謎から、政府が行ってっている検閲・盗撮に気付いてしまう、という話です。

行き先は特異点

サンフランシスコに出張中の文椎が乗るレンタカーが、グーグルの実験中の自動運転車に追突されることから始まる物語です。GSP障害により、特異点となった事故地点に次々とAmazonの配達品を運ぶドローンが集まってくる、という話です。渡り鳥のように同じ地点を目指すドローンが生き物のようで、ファンタジックささえ漂う作品です。

五色革命

バンコク出張中の文椎が遭遇した革命のなかで、ある役割を担います。集会の自由も、結社の自由も、言論の自由もある日本では、なかなか想像しにくい「豊かさと自由に関係がない」という現実を描きます。このテーマは、続く短編にも取り上げられることになります。

巨像の肩に乗って

twitterが中国に門戸を開いたことに憤りを覚えた文椎が、短文投稿型のSNSであるマストドンの暗号化ソフトウェア「オクスペッカー」を開発します。前述の通り、この方面に疎い私には技術的なことはチンプンカンプンでしたが、これまで多くの人々の努力がネット空間での自由という概念を創ってきたことへの熱い思いに溢れる作品であることは伝わりました。

めぐみの雨がふる

前作「巨像の肩に乗って」に続く形で話がはじまります。中国で軟禁状態にされた文椎が、ベーシックインカムを持つ新たな仮想通貨をつくりあげること話です。

相も変わらず、仮想通貨の技術的なことはチンプンカンプンでしたが、とにかく何かを作ろう、手を動かそう、そうすれば世界は良い方に変わる、という著者のメッセージが感じられました。

主人公 ・文椎のキャラクター性

短編集の形をとっていますが、本書は一貫してエンジニア・文椎泰洋の物語を描いています。

主人公でITベンチャー・エッジのエンジニアである文椎は、専門を持たない''何でも屋'を自称します。

ほんの少しのプログラミング、海外の開発会社との折衝、新製品の販促、毎年のように変わる業務に従事し、実績はどれもそこそこ。

別に登場するキャラクターがグーグルに務め、20以上のプログラミング言語を苦も無く操るエリートだったり、幾つものベンチャーを起業し、億を超える金額で売却する女性起業家だったりで、最初は主人公が地味な存在に見えていました(自分はプログラミングなんて一行もできないくせに)。

しかし、それはすぐに誤りだと気づきます。

文椎はプログラミングに優れたエリートでも、億を超える金額を苦も無く操る起業家でもない''普通‘’の男性ですが、「何かをやろう」という思いだけで、拙い技術でも、とにかく行動を起こします。

そんな文椎だからこそ、周囲の人々は味方になっていきます。ネットリテラシーの無い人間(私)でも、物語に引き込まれ、文椎の味方になってしますのは、偏に彼のキャラクター故でしょう。

著者が描く前向きな未来

本書は、ITを題材とした作品には珍しく、明るい未来を確信しているように思います。

テクノロジーの変化への危機感を過剰に煽り、ネットリテラシーの無い人間を馬鹿者のように扱う文章が乱立するなかで、本書はその立場をやんわりと否定しているように思います。

誰かがつくった技術のうえに立つことで、もう少し遠くを見ることができる。そうやって世界は徐々によくなっている。そのために、手を動かし、何かを作ろう、世界とつながろう、そう本書は呼びかけてくれているように私は思います。

長編 『オービタル・クラウド』もぜひ読んでみたいと思わせる短編集でした。

今回ご紹介した本はこちら

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