書にいたる病

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『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ | 【感想・ネタバレなし】お針子の少女が垣間見る上流階級の秘密と真実。”縫う”という技術一つで力強く生きる女性の姿を描く。

今回ご紹介するのは、ビアンカ・ピッツォルノ『ミシンの見る夢』 です。

著者のビアンカ・ピッツォルノイタリアの児童文学の第1人者で、大人向けの作品は本書で3作目とのことです。

そのせいか、”19世紀末のイタリア”という異世界を描いた作品ながら、その語り口は夢と優しさに包まれ、上質のファンタジーを読むように、すっと物語に引き込まれてしまいました。

階級社会の色濃く残る社会で、貧しいお針子の少女が上流階級の家庭で垣間見た人々の秘密や、滑稽で残酷な真実を通して、一人の少女の成長”縫う”という創造性がもたらす自由のすばらしさを描ききっています。

それでは、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ

19世紀末のイタリアで身寄りのないお針子の少女は、亡き祖母から受けついだ裁縫技術で上流階級の家庭の仕事を請け負い自立して生きていく。
各家庭で見聞きした秘密や謎、驚くべき真実や試練を通して少女は成長していく。
そして、彼女自身にも人生の愛と試練が降りかかる。
”縫う”という技術一つで、自由に強く人生を渡り切った女性の姿を描く傑作。

おすすめポイント 

男性優位社会で女性が力強く生きていく様を描いた小説が好きな方におすすめです。

1つの家庭ごとに悲喜こもごものドラマがあり、ドラマティックな話やファンタジーが好きな方にもおすすめです。

 

なるべくネタバレしないようにしますが、気になる方はご注意ください。

”縫う”ということ 

著者による前書きに印象的な文章があります。

そして、私たちのために流行りに安価な服を縫ってくれる、今日の第三世界のすべてのお針子さんたち。私たちがほんの数ユーロで買い求める量販店のために服を縫う。別の人が裁断した、いつも同じ部分ばかり縫っていく一種の流れ作業で、お手洗いに立つ時間も節約するためにオムツまでして十四時間も縫い続ける。そして、最低以下の賃金を受け取って、工場という牢獄で火に巻かれて命を落とす。縫うとは素晴らしい創造的な活動だ。だが、こんなことはあってはならない。絶対に。絶対に。

本書の舞台は、階級社会の色濃く残る19世紀末のイタリアです。

家族をコレラで次々なくした少女は、祖母から受けついだ裁縫技術で日雇いのお針子の仕事をし、貧しいながらも自立して生きていきます。

まだ布が貴重で上流階級であっても、同じ布を何度も縫い直したり仕立て直したりして使い倒していた時代です。

主人公の手がける仕事は、ドレスのような華やかな仕事ではなく、日常的に使用する様々な布(シーツ、肌着、オムツ、etc)を縫ったり直したりする仕事が中心です。

決して豊かとはいえない生活のなかでも、彼女は向上心を失わず、文字を覚え、新しい縫製技術を身に着け、力強く未来を掴んでいきます。

そして、聡明で素直で誠実な彼女は、上流階級の女性の中でも信頼と友情を勝ち得ていきます。

イタリアだけでなく、世界中で刺繍や織物は女性の手仕事として、伝統的に受け継がれてきました。

その手仕事の芸術性は、しかしごく普通の日々のなかで生まれてきたものです。

女たちは、子どもを育て、食事をつくり、おしゃべりしながら縫物を、笑い、独創的なパターンを生み出し、時にはそれを売って家計の足しにしてきました。

”縫う”というただ一つの技術、この創造的な活動のすばらしさが本書では余すところなく描かれています。

女性の生き方として

本書には様々な女性が登場します。

主人公の味方になってくれる大地主の娘・エステル嬢。

エステル嬢の英語の家庭教師でジャーナリストのミス・ブリスコー。

吝嗇家の夫に悩まされるプロヴェーラ夫人とその二人の娘。

これらの女性たちは、裕福で素晴らしいドレスを身に着け、何不自由ない生活を送っていますが、同時に、父親や夫の一存で人生が決まってしまう危うさを秘めています。

一見、自由闊達に振る舞っている米国人ジャーナリストのミス・ブリスコーでさえ、その横暴な男性優位社会から自由でいられなかったことが、物語中で示唆されています。

特に、プロヴェーラ夫人の当時流行したジャポニスム風の桜模様の布を巡るエピソードは、当時の父権的社会が抱える滑稽で悲劇的な矛盾を、意外な角度から突く秀逸な物語です。

対して、主人公の少女は、貧しいお針子ですが、自分の技術一本で自立して生き、父や夫という鎖から自由でいられます。

”縫う”というただ一つの技術が、少女にいくばくかの自由を保障してくれるのです。

こういった極端な事柄は現代は減ったとはいえ、巧妙に更に見えにくい形になって残っているとも言えます。

私たち読者は、主人公の少女と一緒に、何もかも奪い去ろうとする”男たち”に憤慨し、奇妙な真実に驚き、愛について考え、そしてふと自らを省みます。

私たちは、社会規範という名のもとに、誰かから奪い、奪われていないか。

そして、私たちは、手を動かし、何かをつくることができているか。

本書を表す言葉は著者自身のこの言葉に詰まっています。

縫うとは素晴らしい創造的な活動だ。

今回ご紹介した本はこちら

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